酒井宏樹が語るフランスでの挫折と喜び 名門・マルセイユでの挑戦<前編>

木村かや子

プライドを捨て、1対1の対応を見直す

1対1の対応を見直したという酒井。CBとも連係を取りながら守ることを心掛けているという 【Getty Images】

――サイドバックに攻撃参加を多く要求する監督だとも聞きますが。

 攻撃はかなり要求されますね。攻撃することによって、相手の攻撃の選手が僕についてきて下がるので、相手の攻撃パターンが減るんです。攻撃していると同時に、守備もしていることになる。相手のディフェンスラインを押し下げることができるし、僕らが重圧をかけることができるので、攻撃に出ることは重要です。

――先ほどの守備の話ですが、最初の2、3試合、酒井選手は俊敏な黒人系選手にてこずっていたにもかかわらず、数試合のうちにそれが少なくなりました。具体的に何を変えたのですか?

 まずギャンガン戦の次の試合の際に、もっと予測するようにして、1対1の対応を見直したんです。でも、それでも1、2試合で抜かれたので、対応じゃないなと思いました。第一に俺の力不足と、やはりこの人たちが、本当に1対1がうまいからなんだと感じたので、なるべく1対1のシチュエーションを作らないように守ってみようと思ったんです。

 DFとしてすごく屈辱的だったけれど、プライドをひとつ捨てたので。1対1になってしまった場面は仕方がないけれど、早めに寄って、なるべく前を向かせないで、後ろ向きの状態で相手にボールを受けさせるようにし、より近い距離で常に相手を見ているような守り方にしました。それまでは少し距離を置いて、1対1で前を向いてから勝負しよう、という感じだったんですけれど。そしてセンターバック(CB)にも、結構近くにいくから、裏を取られたらよろしくねと言っておいて、連係して守ることも心掛けました。

――特に今、右CBがロド・ファンニになったため、連係がうまく効いています。

 ロドはカバーリングに長けている選手なので、そこはすごくいい。また今は、MFなど前の選手のプレッシングがいいこともあります。プレッシャーがかかっている分、どこにボールが出てくるかも予測できるため、インターセプトも狙いやすいですし、裏には出てこないなという感じで、前にも行ける。プレスがかかっていると、ロングボールか、くさびのボールかというのは相手の蹴るタイミングとか、蹴る足で、だいたい予測できるんですよ。プレッシャーがかかっていないと、どこにでも蹴れる。それが大きな違いだと思いますね。

たまった頭の疲労を経て、休息から訪れた転機

――新監督就任から3試合目のモンペリエ戦(1−3)で、「頭がきつかったが、1試合休んだことで大分落ち着いた」「けがで休み、リフレッシュした。体というより頭が疲れていた」とも言っていました。どのようにきつかったのですか?

 まず監督が代わることになると、「前の監督に対して、いい結果を残してあげられなかった」と選手は責任を感じます。加えて新しい体制になり、集合時間や集合の仕方、(チームでの)食事の仕方まですべてが変わったので、変わったことに対して順応するのにストレスがかかるんですよ。

 何より僕の場合、言葉がよく分からない中、新監督が求めるものを理解しなければいけない。ミーティングでの戦略説明などは基本的にフランス語で、あとでまとめて英語で訳してくれるんですが、その瞬間、瞬間には分からないので、ストレスがたまるんです。

 そんな中、新監督就任の2日後、時間がないのに、パリ・サンジェルマンとすごく激しい試合をして(0−0)、3日後にカップ戦に臨み、そこでけがをした。それでなくても、毎試合いい試合をしなければといっぱいいっぱいだったところに、覚えなければいけないこと、順応しなければいけないことが増えすぎて、そのあたりで少し頭が疲れていたと思います。でも幸い、(けがで欠場した)ボルドー戦(0−0)を外から見て、気持ちを切り替え、すっきりしてチームに戻ることができました。

――自分がいない間にメンバーが定着してしまうのではないか、という危機感はありましたか?

 はい、それがすごく良かったですね。とはいえ正直、ボルドー戦では全然そう思っていなかったんです。でも1試合でも変わる世界だから、誰がやってもいいプレーをするんだな、とも思いましたし、けがで休んでいる場合じゃない、という思いも湧きました……。実際それから、自分でも分かるくらいパフォーマンスがよくなったので。

――けがをしている場合じゃないという思いがスパイスになった?

 やはり刺激になりました。またオーナーが変わってから、明らかにチームがいい方向に進み、皆のモチベーションも高くなりました。やはりこういう中で、自分もサッカーがしたいと、あらためて思ったということもあります。特にボルドー戦の日、新監督の初のホームマッチで観客がすごく入った中、その思いを再確認しました。オリンピック・マルセイユでやりたくて自分は来ているのだから、もっといいプレーをしないとだめだな、と。

感謝の気持ちを持ちながら、調子を維持していきたい

後半戦に向けては「感謝の気持ちを持ちながら、しっかり調子を維持したい」と決意を示した 【写真:ロイター/アフロ】

――自分の強みは何だと思いますか? また、ここまでやって通用すると感じたところと、向上の必要性を感じた部分は?

 チームが勝っている時、調子が悪い時関係なく、右サイドの選手たち、右のハーフやボランチ、右のセンタ―バックと一緒に協力して試合を進められることが、僕の強みだと思います。外国人になると、言葉の問題でより難しくなりますが、それでもここ5年間、うまくやってきたと自分では自負していますし、僕は、本当にそれだけだと思います。

 今、全体にプレーがよくなってきたのも、周りの選手とより理解し合って、連係がよくなってきたためです。周りの選手の特徴も分かってきましたし、周りの選手も僕の特徴を分かってきてくれたので、お互いに良いプレーは託すし、悪いプレーは補うという関係性ができてきています。

――フランスに来たからこそ、もっと伸ばしたいなと思ったことは?

 先ほど言った1対1の部分は、改善していると思います。でも、そこも含めてまだまだですね。70分間は集中できるようになってきていると思うんですが、まだ20分、集中できていないところがある。去年や、何年か前には自分が集中できるマックスの時間は50分、40分くらいで、今それが70分になっている。少しマシになってきてはいますが、まだまだ伸ばせるところというと、そこかなと思いますね。あとはもっと強いチームとやったときに、新たな課題が出てくると思います。

――冬の移籍市場もありますが、ポジションがかぶる選手が入ってくると、やはり気になりますか?

 気になりますよ、選手ですからね。でも誰かが来れば、自分は望むところだし、来なければ、自分が1シーズンやるつもりで体の管理からきっちりやらないといけないので、自分がやるべきことは変わらないと思います。

――前半戦はいい形で終わりました。後半戦に向けては?

 この半年は、あっという間だったけれど充実していました。やるべきことを全力でやろうと取り組んできたので、毎日毎日が早かったと思います。皆のサポートに助けられ、ここでサッカーができているので、そういう感謝の気持ちを持ちながら、しっかり調子を維持してやっていかなければと思います。「あいつ半年で終わった」みたいに思われたら嫌ですからね!

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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