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大エースのいない駿台学園の絶対的な武器
高校バレー「三冠」を支えた総合力

東京対決を制して初優勝

インターハイ、国体に続いて春高を制覇し、三冠を達成した駿台学園
インターハイ、国体に続いて春高を制覇し、三冠を達成した駿台学園【坂本清】

 何度も激闘を繰り広げてきた、最大のライバルでもある東亜学園との史上初の東京決勝。互いに「知り尽くした」相手との最終決戦、一手を打てば、一方も対応し、その都度流れが行き来する。


 決着をつけたのは、駿台学園の村山豪のブロックだった。東亜学園のエース、中道紘嵩のレフトからのスパイクを、センターでブロックに跳んだ村山が止めて25−20。セットカウント3−1で勝利した駿台学園がインターハイ(全国高校総体)、国体に続いて春高(全日本バレーボール高等学校選手権大会)を制して「三冠」を達成した。


 決勝では途中交代しながらも、主将として攻守に活躍した駿台学園のキャプテン、坂下純也は大粒の涙を流し、喜びをあらわにした。


「練習もきつかったし、苦しいこともいっぱいあったけれど、周りから『お前が打たないと勝てないんだぞ』と言われて力が出た。仲間に支えられて、総合力で勝つことができて本当によかったです」

メンバーや役割を変えて戦える総合力

メンバーやポジションを入れ替えることができるのが駿台学園の強み
メンバーやポジションを入れ替えることができるのが駿台学園の強み【坂本清】

 駿台学園に大エースはいない。だが、「他には負けない絶対的な武器がある」とセッターの本澤凌斗は言う。


「いろいろな状況に対応して、違う戦い方ができる。練習試合や公式戦でもそれは常に意識してやってきたので、メンバーやポジションが代わってもできるのが自分たちの強みだと全員が分かっていると思います」


 東亜学園との決勝戦、さらには前日の習志野(千葉)との準決勝はまさにその一面が発揮された。


 準決勝ではウイングスパイカーの坂下と吉田裕亮の位置を試合の中で入れ替えた。警戒していた習志野のミドルからの攻撃が想像以上に高かったため、対策として村山をそこに当て、調子の出ない吉田と坂下を入れ替えることで坂下の得点機会を増やすことが狙いだった。その策は奏功し、苦しみながらも3−1で勝利を収めた。


 決勝でも、1セット目からセッターを本澤から望月祐に代えた。このセットを先取された後に再び本澤をセッターに戻し、今度はミドルの伊藤洸貴と村山を入れ替え、過度なプレッシャーから、消極的なプレーが続いた坂下に代えて小出捺暉を投入した。


 大方のチームが、スタートで出ていたメンバーが代われば「よし、相手は崩れた」と思うのが常だが、駿台学園の場合は違うと梅川大介監督は言う。


「どこのポジションでもこなせる選手がそろっているし、全員が守れて、全員が打てる。たとえば両サイドがつぶされたとしたら、後ろでサイドをリベロに代えて、ミドルがバックアタックに入る形も対応できるように練習試合でシミュレーションを重ねてきました。だから決勝も、悪ければ外すし、役割を変えて戦い方を変える。総合力には自信がありました」

勝つためにそれぞれの引き出しを増やす

勝つためにそれぞれの引き出しを増やし、それを試合で発揮する。総合力が駿台学園の武器だ
勝つためにそれぞれの引き出しを増やし、それを試合で発揮する。総合力が駿台学園の武器だ【坂本清】

 試合の中で修正し、対応を変えるのはメンバー交代やポジションチェンジに限らない。決勝の序盤は「東亜のブロックを意識しすぎてトスを速くしていた」という本澤に対しても、梅川監督はスパイカーが打ち切れていないことを考慮し、トスを高くしてスパイカーに余裕を持たせる「間」をつくった。


 その結果、第3セットから再びコートに戻った坂下もブロックの間を無理に抜くのではなく、ブロックに当てて飛ばしたり、相手の守備が対応してきたら空いたコースに打つなど、冷静なプレーが展開できるようになった。その結果スパイク得点も増え、ブレークの回数が増えた。


 さらに決勝でも光ったのがサーブ戦術だ。事前に「このローテではここを狙う」とデータに基づいた戦略が組まれているが、試合になればそのコースへ打っても崩れないことは少なくない。


 ならば、ブレークを取るためにはまず「相手を崩す」ことが大前提なのだから、事前の戦略どおりではなく、試合の途中でサーブも変える。同じ選手がジャンプサーブとジャンプフローターを混ぜたり、同じターゲットを狙うにしても打つ場所を直前に移動する。相手からすれば、左側から来るはずのサーブが、急きょ右側から来ることで感覚が変わり、同じサーバーのサーブでも崩れることは多々ある。決勝でも伊藤や藤原、村山がサーブを打つ直前に位置を変えて放ったサーブで連続してブレークポイントを取る場面も目立った。


 それも、ただ監督に言われたから場所を変えて打ちましたという簡単なものではないと伊藤が言う。


「いくら自分が得意なコースでも、崩れないところに打ってもしょうがない。どの場所からも、どのコースにでも打てるように練習してきたので迷いはありませんでした」


 得意なプレーを積み重ねるのではなく、勝つためにそれぞれの引き出しを増やし、それを試合で発揮する。まさにその完成形とも言うべき決勝の戦いぶりだった。

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当