うれしくても悲しくても、感情を揺さぶる ライター島崎が語るJリーグの魅力(6)
Jリーグの魅力を伝える連載。最終回では、今季の浦和について振り返る 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
リーグ制覇を逃した16年シーズンを振り返る
傷心の僕はすぐさま取材と称してドイツへ逃避行。石畳の路地にある町外れのカフェで必死にネット回線を確保し、日本で開催されているクラブワールドカップで躍進する鹿島の勇姿を見つめ、逃した成果の重さを痛感して今に至っております。
これはもう、16年シーズンのことはキレイサッパリ忘れて新シーズンに思いを馳せようと思い立って日本へ帰国した瞬間、僕のパソコンがまたしても不吉なメールを受信しました。恐る恐るメールを開封しますと、やっぱり……。鹿島サポーターを公言するスポーツナビ編集部・K女史からの原稿催促ではありませんか。K女史から厳命された本連載最終回のお題目はズバリ、「今季の浦和について記してください」……。
パックリと開いた傷口に塩を塗るようなドSな指令に打ちひしがれ、しばしキーボードの上に突っ伏してしまいます。そんな僕の後頭部を愛猫が小突きます。
「下僕よ、失念してはいまいか? わらわの食事の時間が過ぎているぞよ」
いやはや、分かりました。分かりましたよ。こうなれば、今一度現在の浦和の成り立ちを回顧し、このチームの未来を見据えようじゃありませんか。たとえ真っ白な灰になっても、過去の振り返りなくして前になど進めません。
阿部勇樹がレスターから移籍した理由
阿部はレスターでやりがいを感じていたが、12年に浦和への復帰を決意 【写真:Action Images/アフロ】
レスターにはレスター・シティというクラブがあります。15−16シーズンにジェイミー・バーディー、リヤド・マフレズ、岡崎慎司らを擁してプレミアリーグ制覇を果たした「ミラクル・レスター」ですが、11−12シーズンのチームは2部に相当するイングランド・チャンピオンシップに在籍していて、クラブはプレミア昇格を目指して日々奮闘していました。そのチームの一員に、10年9月に浦和から移籍加入した阿部選手がいたんです。
レスターで約1年半を過ごしていた“阿部ちゃん”は、ある決断を下そうとしていました。それはレスターから浦和への移籍です。ヨーロッパの舞台から再び古巣へ帰る。そこには阿部ちゃんの断固たる決意と熱意が内包されていました。
当時のレスターは2部とはいえ、気鋭のクラブとして頭角を現していました。タイ人オーナーの就任によって資金も豊富になり、プレミアでの戦いに現実味を帯びていた時期でもありました。チームの一員である阿部ちゃんも当然志高く、当時世界最高峰と称されていたプレミアでのプレーを見据えていました。
「2部といっても、チャンピオンシップには(当時)ウェストハム、サウサンプトン、ミドルズブラ、リーズなどのプレミア在籍経験のあるクラブもあるからね。ここでのプレーはタフだけど、やっぱりやりがいがあるよ。その中でレスターはプレミア昇格を目指しているわけで、その先を夢見ることは、もちろんある」
阿部「約束を果たすために浦和へ帰る」
「浦和でJリーグタイトルを取りたい」という思いが復帰の理由だった 【写真は共同】
阿部ちゃんは、当時の浦和が「一枚岩になっていない」「団結心が薄れている」と感じていました。それは誰のせいでもなく、このクラブに関わる者全ての責任だと。その上で、彼は「この場所」の魅力を見いだしていました。
「浦和レッズサポーターの声援に支えられてプレーする。これ以上の喜びはないよ。最近はレッズの人気低迷が叫ばれているらしいけれど、これからもレッズサポーターがいなくなることなんてない。僕ら選手が結果を残せば、必ずサポーターは支えてくれる。だから僕ら選手は全力で試合に臨んで、勝利を目指さなきゃならない。それは当然のこと。
最近は現役選手の間でもレッズの人気が落ちているんですよね。それでレッズに来たくないと思う選手もいるんですってね。でも多分、その選手はあのスタジアムで、仲間の大声援を受けながらプレーをしたことがないから、このチームの良さが分からないんだと思う。あのサポートを受けたら、どんな選手だって思いが深まるはず。だって僕がそうだから。
僕は10年9月5日の駒場(スタジアム)でサポーターと約束したんです。いつか必ず浦和へ帰るって。だから僕は今回、その約束を果たすために浦和へ帰る。そして僕は、浦和レッズでJリーグ優勝を勝ち取るために闘う。それが僕に唯一できる、チームを支えてくれるみんなへの恩返しになると思うから」
この阿部ちゃんの言葉は、僕が運営している「浦研プラス」という会員ウェブサイトで以前に発表したコラムからの引用です(宣伝です、すみません)。
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「浦和でJリーグタイトルを取りたい。それが今の僕の、唯一無二の夢なんだ」