新垣渚、喜びも悔しさもかみしめて 「最後の甲子園ですべてが吹っ切れた」

週刊ベースボールONLINE

14年間のプロ野球人生を振り返った新垣 【写真:BBM】

 松坂世代の1人として一世を風靡(ふうび)した男が、また1人、静かにユニホームを脱いだ。ルーキーイヤーに福岡ダイエー(現福岡ソフトバンク)の優勝に貢献。160キロも夢ではない、と言われた剛速球を武器に2年目には奪三振王を獲得した。だが、5年目以降はケガに悩まされることに。光と影を味わった14年間を振り返る。

 11月末に引退を表明した新垣渚に話を聞いたのが12月初旬だった。「まだ早いのでは?」と周囲から言われるたび、後悔のない決断だったはずなのに、気持ちは揺らいだ。そんな心境の中、笑顔で語り始めた。(文中敬称略)

「今度は家族を最優先にしたい」

──「11月いっぱいで声が掛からなかったら引退します」と、トライアウト直後に話されました。期限としては短いような印象を受けました。

 ただ、今まで引退した人を見ていても、長い人では3月くらいまで延ばしていますが、声が掛かっていないことのほうが多いなというのを感じていて。そこまで引っ張ると自分というよりも家族が厳しいなあと。来年の仕事の話をもらうことができたのなら、その相手にも迷惑が掛かりますから。タイミングってあると思うし、自分も覚悟を決めないといけない。やっぱり引き際も考えないと。そういうすべてのことを含めて11月で声が掛からなかったら、プロ野球選手は終わりかなと。

──トライアウトを受けるときには決めていたのですね。

 戦力外と言われた時点で期限をいつにしようというのは考えていました。今年クビになるということは覚悟していたので。

──覚悟したのはいつ頃だったのでしょうか?

 7、8月くらいには流れとか動きとかで何となく感じていました。9月には妻にも話していましたね。

──NPB以外でのプレーは考えなかったのでしょうか?

 あまり考えてはいなかったですね。僕一人だったら野球を続けたいという思いで続けられますけど、やっぱり家族がいますから。上の子が来年小学生になりますし、妻のお腹には3人目もいるんです。収入の面や暮らす場所のことを考えると、やっぱりきついかなって。まああんまり子どもとも遊べていなかったのでね。今年までは僕を最優先にしてもらっていたから、今度は家族を最優先にしたいなと思う気持ちが強くなりました。

「甲子園ですべてが浄化された気がした」

最後の登板となった11月12日のトライアウトでは打者3人を二ゴロ、二ゴロ、二直に抑えた 【写真:BBM】

──引退を決断して、今はどういった心境なのでしょうか?

 トライアウト前までは「まだできる」とか「まだ投げられるのに」というもどかしさとか悔しさはいろいろありました。でも今はなくなってきましたね。

──まだできるという気持ちがあったから、トライアウトを受験した。

 本当は受けなくてもいい年齢なんですけどね。だけど、(会場が)甲子園ということもあったので。最後になるかもしれないという覚悟も決めて、投げに行ったんです。甲子園で久々に投げて、そこですべてが浄化されたような気がしました。そこに行ってなかったら、モヤモヤした気持ちや悔いが残ったかもしれない。だけどあそこで投げて全部吹き飛びましたね。

──甲子園はやはり特別な場所。

 特別だと思いますよ。アマチュアの人があこがれる場所であり、自分も通ってきて、そこから未来をつかんでいったというか。夢をつかめた場所でもあるし。スタート(高校時代)はホームランばかり打たれて、最後の夏は1回戦負けと、自分としてはあまり良くない思い出だけど(苦笑)、でもあの場所があったから、今の新垣渚というプロ野球選手もできたわけですから。僕にとっては始まりと終わりの場所になりましたね。最後のお別れのあいさつをしに行ってきました(笑)。

──甲子園には1万2000人の観客がかけつけました。

 すごかった! たくさんのお客さんが並んでて「あれ、場所を間違った?」と思ったくらい(笑)。プロ野球選手はクビになっていましたけど、久々にまたプロ野球選手だと勘違いさせてくれるような雰囲気作りも最高でした。今自分ができるパフォーマンスは全力で出したし、とりあえずヒジがぶっ飛んでもいいから全力で投げてみようと。気持ち良かったですね。その気持ち良さが、「もっと投げたいな」という気持ちにもなりましたけど。今まで野球ってものすごいプレッシャーしかなかったけど、ちょっとだけ離れると、またやりたい、楽しいって思うんですね。それを甲子園で味わえました。いろいろな思いがありましたけど、全部吹っ切れましたよね。

1/3ページ

著者プロフィール

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント