八村塁の渡米からNCAAデビューまで 学業もバスケも今がスタートライン

小永吉陽子

NCAAデビューを果たし、緊張も解けてきた八村 【小永吉陽子】

 2016年5月、米ゴンザガ大入学を前提として、大学内でESL(English as a Second Language=第二外国語としての英語)を受講するために旅立った八村塁。あれから半年――背番号21を身にまとった八村は、11月11日(現地時間)、NCAA(全米大学体育協会)開幕戦のコートに立った。日本の高校に通いながら、NCAAディビジョン1の強豪校へ初のスカラシッププレーヤー(奨学生)として進学した八村塁。注目の逸材が直面した米国でのスタートラインを追った。

緊張が解けた米国4戦目のプレー

 11月18日のブライアント大戦で八村に与えられたのは試合が決してからの5分間。エキシビションゲームを入れて4試合目の八村は、いわゆるガベージタイムでの登場だったが、それでも、スティールからの速攻やフリースローを決めて6得点、ブロックショットとリバウンドを各2本、アシスト1本をマーク。これまで緊張からか硬かった3戦とは違い、エネルギーを発散して自分をアピールした。

「開幕した頃は緊張していたのですが、4試合目なので慣れてきました」と本人が言えば、ヘッドコーチ(HC)のマーク・フューも「今日はアグレッシブだった」とそのパフォーマンスに合格点を出した。まだ主力ローテーションに入れない八村にとって、この小さな歩みが今は大切な経験になっている。

試合出場には学業成績も求められる

 ユニホームを着るのか、レッドシャツなのか――。

 5月に渡米してから、八村の情報は聞こえなくなっていた。八村の将来性を高く評価した現地のメディアが「将来のNBA選手」だと騒ぐことはあっても、ゴンザガ大からも、本人からもコメントは一切出ず、開幕を直前に控えてもユニホームを着るのかどうかも不明だった。それは、チーム側が本人を勉強に集中させるための配慮であり、八村自身も取材に応じる余裕がないほど、環境に慣れるために必死な生活を送っていたからだ。

 夏に一度だけ八村と連絡を取る機会があったが、その時も「こんなにも勉強しなきゃならないのはバスケのためだと言い聞かせています」と、米国に来た意味を自問自答しているかのようだった。

 NCAAでは、学業で基準の成績に達しない場合は試合に出られない規則があり、また負傷においても登録を見送るケースがある。そうした状況において、練習には参加できてもユニホームを与えられない選手のことを「レッドシャツ」と呼ぶ。またそうならないためにも、大学側は勉強のアシストをするチューター(個別指導の教師)を用意する。英語力に課題がある八村の場合も通常の授業のほかに、チューターのもとで1日2〜3時間の個別授業を受けている。レッドシャツを回避するには、越えなければならないハードルがいくつもあったのだ。

デビューを果たした八村(左から2人目)だがコミュニケーションの面では課題も残り、出場時間が限られている 【小永吉陽子】

 八村は5月に渡米する前に5回に及ぶ大学進学適性テスト(SAT)を受けてスコアを伸ばし、高校の評定平均(GPA)との総合評価によって、NCAAの基準を満たしている。また渡米後には、大学側が設ける基準に達するためにESLを受講して猛勉強に励み、秋にはその基準をクリア。それでも、地元紙を中心にレッドシャツ候補だとささやかれていたのは、やはり語学力不足により、環境に適応する時間が必要とされていたからだった。

 しかし八村自身は「たとえレッドシャツになっても、プレップスクール(進学のための準備学校)には行かずに1年目からゴンザガ大で練習したい」と渡米前から決意を語っており、そして学業との両立に苦労してでも、1年目からユニホームを着ることを望んでいた。

「すでにウインター杯からは1年が経っていて、これ以上、公式戦に臨む気持ちや準備を忘れたくなかった」という八村の胸の内は、4戦目にしてようやく緊張から解かれたプレーを見れば痛いほど分かる。そうした状況を踏まえたうえで、開幕直前にHCとの話し合いにより、ユニホームを着ることを自ら選択したのだ。HCにしても「今のルイには試合の経験が必要」という思いがあり、レッドシャツ回避には賛同している。「たくさんのサポートがあってコートに立てました」と感謝の気持ちを述べる八村は、周囲の期待と支援を背に、ゴンザガ大でのスタートを切った。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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