ソウルで見た「裏の」アジア最終予選 韓国の劇的逆転勝利から何が見えたか?
ソウルでの現地観戦で掲げた3つのテーマ
ソウルW杯スタジアムにて。韓国の女子サポーターの間では「赤い悪魔」をイメージしたグッズが大流行 【宇都宮徹壱】
さて、私が現地を訪れたのは11月15日。そう、ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、日本対サウジアラビアの大一番が行われる日だ。なぜ、埼玉スタジアムではなくソウルに向かったのか。実は当初、個人的な事情でこの日の取材を諦めざるを得なかったのだが、状況が一転して急に体が空くことになった。とはいえ、取材申請は締め切られているし、チケットも売り切れている。どうしたものかと思ったときに、ふいに「他国の予選を現地観戦しよう」と思った次第。急ぎ、FIFA(国際サッカー連盟)のサイトをのぞいてみると、ちょうど隣のグループで韓国対ウズベキスタンの試合があることが分かり、「これだ!」と思った。
今回の現地観戦で、私が掲げたテーマは3つある。
まず、「最終予選を俯瞰的にとらえ直す」こと。このところ日本代表の取材を、やや近視眼的にとらえ過ぎているのではないか、という自分自身への反省があった。ここはいったん、ニュートラルな視点で最終予選を現地観戦することで、何か新鮮な発見が得られるかもしれない。
次に、「韓国代表の現状を確認する」こと。韓国は4試合を終えて2勝1分け1敗のグループ3位に甘んじており、ウリ・シュティーリケ監督は解任の恐れがあるとも報じられている。後がないという意味では、かなり日本に近い状況であり、グループ2位のウズベキスタンをホームに迎えての一戦は、現地では「ギロチンマッチ」と呼ばれている。そんな韓国代表の真剣勝負を、やじ馬的に見てみたいという思いがあった。
そして最後にもうひとつ、「日本がプレーオフに回った場合のことを考える」というテーマも実は頭の中にあった。4試合を終えた時点で、イランが3勝1分けと無敗でグループ首位を堅持しており、それをウズベキスタンと韓国が追うという展開。残りの3チーム(シリア、カタール、中国)との実力差を考えるなら、プレーオフに回るのはウズベキスタンか韓国と見るべきであろう。もちろん、あまり想像したくないことではある。が、常に最悪の状況も想定しておくべきだろう。私がソウルW杯スタジアムに向かったのは、以上の理由によるものであった。
「ギロチンマッチ」直前のスタジアムの光景
地元記者はソン・フンミン(左)らが戻ってきたことは好材料と語るも、ウズベキスタンのカウンターを警戒していた 【Getty Images】
スタジアム到着後、まず向かったのがメディア受付の入り口。ここで友人を介してチケットを購入してくれた、地元の記者と落ち合うことになっていた。約束の時間に現れたのは、『Footballist』のシニアエディター、リュウ・チョンさん。バックスタンドの前列で、価格は5万ウォン(日本円で約4500円)だった。今日の試合について、リュウさんに展望を尋ねると「厳しいゲームになりますね。カナダ戦(11日)に出場していなかったソン・フンミンやキ・ソンヨンが戻ってくるのは好材料ですが、ウズベキスタンのカウンターアタックは脅威です。今日は4−1−4−1で慎重に戦うと思います」とのことだった。
無事にチケットを購入できたので、スタジアム周辺の屋台でおでんのようなソウルフードを食べながら、この日の客層を観察する。まず気づいたのが、ウズベキスタン人の数がやたらと多かったこと。日本でも何度かウズベキスタンとの試合は行われているが、アウェーのサポーターは非常に限定的であったと記憶する。ところがこの日は、会場のあちこちでウズベキスタンの人々(それも男性ばかり)を見かけた。あとで調べたところ、韓国はウズベキスタンから多くの労働者を受けているようだ。ソウル〜タシュケント間は直行便が毎日飛んでいるし、ソウルの東大門付近にはウズベキスタン人街もある。
キックオフ1時間前。バックスタンドの最前列に腰を落ち着ける。本当に、拍子抜けするくらいガラガラだ。バックから見て右手側は、韓国のサポーターグループ『レッドデビルズ』が率いるコアなファンで真っ赤に埋め尽くされていて気合充分だ。そして左手側のアウェーゴール裏は、数百人のウズベキスタンのサポーターが祖国の国旗を振りながら気勢を上げている。驚いたことに、バックスタンドにも、かなりのアウェーサポーターが陣取っていた。やがてキックオフの時間が近づくにつれて、客席は徐々に埋まり始めるが、それでもやっぱり空席が目立つ。結局、この日の入場者数は3万526人。ソウルW杯スタジアムは6万6704人収容だから、半分にも満たなかったことになる。