“ドルベリの夜”に4万人がくぎ付け 期待を背負うアヤックスの19歳FW

中田徹

交代時にはスタンディングオベーションも

19歳のデンマーク人ストライカー、ドルベリ(右)のプレーが観客を魅了した 【Getty Images】

 11月3日(現地時間)に行われたヨーロッパリーグ(EL)、アヤックス対セルタの試合。アムステルダム・アレーナに駆けつけた4万8000人の観衆の目が、19歳のデンマーク人ストライカーにくぎ付けになった――。その名はカスパー・ドルベリ。

 試合開始時から安定したポストプレーを披露していたドルベリは、20分過ぎから縦への推進力に満ちたドリブル突破を見せるようになる。24分には、ドルベリのくさびからアヤックスが左に攻撃を展開し、ハキム・ジエクのクロスを受けたドルベリが胸トラップから左足のボレーシュートを地面にたたきつけるように打った(GKがセーブし、アヤックスがCKを得た)。

 ドルベリがボールを持つたびに、セルタのDFにアラームが鳴った。33分、ペナルティーエリアでボールを持ったドルベリに、セルタはセンターバック(CB)とMFが前後から挟みボールを奪いにいく。しかし、ドルベリは一瞬のうちに2人のマークをかわして縦に突破。39分の1対1からのすり抜けはオブストラクションで防がれた。

 ドルベリがどんどんセルタゴールへ迫っていく。

 41分、CKからドルベリがバックヘッドでシュートを放つが、GKが辛うじてセーブした。「ああ、惜しい……」とため息がスタジアムに漏れる。その直後、セルタの選手が放ったスローインをすぐにアヤックスが回収すると、ベルトランド・トラオレからドルベリにボールが渡る。セルタのCBセルヒ・ゴメスが、すかさずアプローチに行くも、ドルベリはボールをゴメスの内側に通し、自らは外側をすり抜けてシュート体勢へ持っていった。右45度から放たれたシュートは、GKルーベン・ブランコ・ベイガのニアサイドを破ってゴールイン。あまり感情を表に出さないドルベリは派手にポーズを作ることはなく、味方からの祝福にほほえむだけだった。

 後半もドルベリのポストプレーは光った。3−1とアヤックスリードの83分、ドルベリはスタンディングオベーションの中、マテオ・カシエラと代わってベンチに退いた。チームは3−0という楽勝ムードから、最後はあわや同点かというシーンも迎えたが、辛くも3−2で逃げ切った。アヤックスはグループリーグ第4節で早くも決勝トーナメント進出を決めた。アムステルダム・アレーナでは、この試合のマン・オブ・ザ・マッチにドルベリが選ばれたことが発表された。

試合後の監督会見でも話題を独り占め

ボス監督も「ポテンシャルは計り知れない」とドルベリの能力の高さを認めている 【Getty Images】

 セルタ戦のゴールのように、ボックス内のドルベリは相手GKをよく観察し、落ち着き払っている。10月23日に行われた第10節、完全アウェーのデ・クラシケル(アヤックスとフェイエノールトの一戦)では、フェイエノールトの守護神ブラッドリー・ジョーンズとの1対1から、冷酷無比にチップシュートで先制ゴールを決めている。

 パワーもある。第7節のズウォーレ戦では30メートル近くの距離から、大砲から弾が飛び出たような強烈なシュートをバーに当てた。このシュートはゴールラインテクノロジーによって、ドルベリのゴールと認められた。
 
 セルタ戦後、アヤックスのペーター・ボス監督が語ったように、ストライカーは「アヤックスの中で一番難しいポジション」と言われている。ズラタン・イブラヒモビッチ、クラース・ヤン・フンテラール、ルイス・スアレスといったストライカーがビッグクラブへ羽ばたいていったアヤックスだが、育成部門から引き上げて大成したストライカーはパトリック・クライファートまでさかのぼらなければいないのだ。

 アヤックスのストライカーというのはゴールを決めるだけでは認められず、味方の良さを引き出すようなポストプレーや、敵陣の狭いエリアでも自由にボールを操るテクニックが必要とされる。昨季半ばからゴールを量産したアルカディウシュ・ミリク(現ナポリ)ですら、当時のフランク・デ・ブール監督の信頼をつかむことができず、優勝の懸かった最終節ではゴールがほしい時間帯でベンチに下げられたほどだ。

 ドルベリには、アヤックスの育成部門が送り出す久しぶりのワールドクラスのストライカーになる期待が掛かっている。セルタ戦後、ボス監督は「そのポテンシャルは計り知れない」と語った。しかし、オランダ1部リーグ、そしてELという負荷の高い試合を続けている中で、デンマーク代表に初選出されたことに、指揮官は複雑な表情だ。

「彼には休息も必要だ。(U−19デンマーク代表の一員だった)昨季はけがを繰り返していた。この間のU−21代表も背中の痛みで辞退しているからね」(ボス監督)
 
“ドルベリの夜”となったセルタ戦。その後の監督記者会見もまた、ドルベリが話題を独り占めしていた。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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