世界一のカブスは“呪い”をどう解いた!? 108年の負の歴史に終止符を打った日

杉浦大介

第7戦は最後までスリリングな大接戦

第7戦までもつれたワールドシリーズを制して108年ぶりの世界一に輝いたカブス 【写真:ロイター/アフロ】

 長く苛まれた“呪い”を解くのはこれほど難しいのか――。8回裏、インディアンスのラージェイ・デービスの2ラン本塁打で試合が6対6の振り出しに戻った瞬間、頭を抱えたカブスファンは多かっただろう。

 現地時間11月2日、クリーブランドで行われたワールドシリーズ第7戦。1908年以来の世界一を目指したカブス、1948年以降は世界一から見放されてきたインディアンスが争ったドラマチックな最終決戦は、最後までスリリングな大接戦になった。

 デクスター・ファウラーの先頭打者ホームランで先制したカブスがゲームを優位に進め、8回まで6対3とリード。これで世界一を手中に収めたかと思いきや、インディアンスもデービスの一発などで8回に同点に追いつく。ゲーム終盤に降り出した雨の中、試合は延長に突入し、勝負の行方は混沌としたのだった。

「ほとんど気絶しそうなくらいのゲームだったよ。序盤に主導権を握ったと思ったのに、8回裏に追いつかれてしまった。すごいバトルだった」

 ベン・ゾブリストの言葉はアメリカ人のそれらしく大げさだったが、この日ばかりは実感がこもって聞こえた。

MVPのゾブリストが勝ち越し打

「ほとんど気絶しそうなゲームだった」と振り返ったゾブリストが延長10回に勝ち越し打。今シリーズのMVPに輝いた 【写真:ロイター/アフロ】

 同点で迎えた9回裏には、完全にスタミナ切れの守護神アロルディス・チャプマンが普段は滅多に投げないスライダーを多投。スタンドまでサヨナラ弾を運ばれても不思議はない甘い球も多く、シカゴアンは生きた心地がしなかったはずだ。

 しかし……どんな修羅の時間にも終焉は訪れる。延長10回、MVPを獲得することになるゾブリスト、33歳のミゲル・モンテロという2人のベテランのタイムリーでカブスは2点を勝ち越し。その裏には1点を返されたものの、最後は5人目の投手となったマイク・モンゴメリーがマイケル・マルティネスをサードゴロに打ち取り、大健闘のインディアンスもついに力尽きた。

 さまざまな意味で長く語り継がれていくであろう特別な一戦は終わった。1945年以来のワールドシリーズに臨んだカブスは8対7で死闘を制し、実に108年ぶりとなる歴史的な優勝を手にしたのである。

マドン監督「迷信なんて関係ない」

“ヤギの呪い”を吹き飛ばすべく、敵地クリーブランドにカブスファンも大勢訪れた 【写真:ロイター/アフロ】

「カブスは2度とワールドシリーズには勝てないだろう」

 1945年のワールドシリーズでのこと。普段から連れていたヤギの入場をこの日に限って断られた“ビリー・ゴート・タバーン”という酒場の店主はそう言い残し、実際にカブスは第4戦からタイガースに3連敗で敗退。世にも有名な“ヤギの呪い(ビリー・ゴートの呪い)”の誕生である。

 以降、何十年にも渡ってカブスは低迷を継続。アメリカではこういった迷信じみた話が意外に受け入れられるもので、カブスが取り憑かれた“呪い”は米スポーツ史の一部となった。しかし、長かった今シリーズを終えて、カブスのジョー・マドン監督は厄介なジンクスの存在を一蹴している。 

「今夜の試合でも、一部の人たちはどんな結果になるかを疑ったかもしれない。ただ、これがベースボール。良いチーム同士が対戦すれば、さまざまなことが起こる。迷信なんて関係ない。そういったものを信じていたら、前には進めなくなる」

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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