小林祐希は早くもチームのヒーローに!? ヘラクレス戦で送られたチャントの意味

中田徹

ロングインタビューが組まれることも

 だが、ヘラクレス戦後に湧き上がった小林へのチャントには違う意味も含まれていたと、私は思うのだ。

 小林はヘーレンフェーンのファンサイトのコラムで「ピッチの中でもピッチの外でも、小林がパーソナリティーに優れているのは確か」とつづられるほどオープンな性格と、チームに献身的な姿勢が知れ渡っていた。さらに、ヘラクレス戦前日の『レーワールダー・クーラント』紙は、小林の顔写真を含めると3ページ近くのロングインタビューを載せ、小林のヘーレンフェーンを思う気持ちを紹介したのだ。2時間にわたったというインタビューは、小林のお気に入りのレストランで行われた。

「小林にはヘーレンフェーンのセントラムに行きつけのレストランがあって、お気に入りの席がある。週に2回、時には3回、そこで食事をとっている。孤独だからでも、料理ができないからでもない。ただ単に、人々の賑わいが楽しいからだ。チームメートの(ユネス・)ナミルや(モーテン・)トルスビーとテーブルを囲むこともしばしばだ。メニューを渡しても、ウエーターは彼がカニスープ、ペッパーステーキ、それからコーヒーを頼むのを分かっている。さらにマヨネーズを添えたポテトを頼むこともある」

 そして小林はホームシックとは無縁の生活を送っていること、オランダ人がキャラバンを使ってフランスまで旅することに驚いていること。オランダ語も勉強しているが、将来を見据えて英語の習得に力を入れていること、ヘーレンフェーンに高い違約金を残した上でステップアップを早く図りたいことなど、オープンに語っていた。中盤2人のチームメートの話題になると、小林の口調はさらに熱を帯びたようだ。

「スタインとペレ(ファン・アメルスフォールト)は素晴らしい。スタインから自分は多くのことを学んでいる。彼はものすごいよ。フットボーラーとして必要なもの全てを備えているんだ。僕たちはあっという間に息が合って、お互いに理解し合っている。ペレは当初、今ひとつうまくいかず、少し自分にいらついていたが、今はポジティブになって、成熟してきた。ペレは試合の状況を読むのがうまい。非常に良くやっている」(小林)

「チームを押し上げたいと常に思っている」

「チームを押し上げたいと常に思っている」と語る小林。早くもヘーレンフェーンのローカルヒーロになった 【Getty Images】

 インタビュアーは、小林がオランダデビューマッチとなったトゥエンテ戦で、チームメートに対して指示を出し続けたことに驚いている。

「それは当然でしょう。だって自分はもう24歳。このチームでは年上の方だからね」(小林)

 そして小林はヘーレンフェーンが来季、ヨーロッパの舞台で戦うことを宣言している。
「ヘーレンフェーンは来季、ヨーロッパで戦うよ。チャンピオンズリーグにも行けるかもしれない。ヘーレンフェーンにはレザ(・グーチャンネジャード)、スタイン、エルビン(・ムルダー)がいて、しっかりした土台ができている。うちの4バックはとても固い。ラーションとゼネリはここにいる通訳の子供たちも大好きだ。彼らはやがてヨーロッパのビッグクラブに行くだろうね」(小林)

 ヘラクレス戦後、ミックスゾーンに姿を表した小林は試合後のチャントについて、「それだけの愛情を持ってこっちに来ているのでうれしいです」と語った。

 恐らく、この日のチャントは現地紙に載ったロングインタビューも含めて、小林に対してファンがポジティブに感じていることも影響しているのではないかと彼に伝えてみた。
「このチームで成功したい。このチームを上に押し上げたいと常に思っている。それぐらいの愛情を持ってこのチームに来たので、それを分かってもらえたのはうれしいです」
 
 試合後すぐ、小林はSNSにスタジアムで日の丸を振って応援している子供の写真を載せ「スパイクをプレゼントしたいから、本人がこれを見たらクラブハウスに来てほしい」とメッセージを送った。これにはヘーレンフェーンのサポーターも「さすがヒーローだ」などと喜んでいた。すでに、この子供の母親からヘーレンフェーンのファンサイトに連絡がいっており、近々小林からスパイクが渡されることになるだろう。

 小林祐希は早くもヘーレンフェーンのローカルヒーローになった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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