【UFC】ビスピン地元凱歌か、ダンヘンが王者で勇退か 大ベテラン同士の7年越しドラマがここに終結!

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7年越しの因縁決着へマイケル・ビスピンとダン・ヘンダーソンがUFCミドル級王座をかけ対戦 【(c)Zuffa.LLC/(c)gettyimages】

 日本時間10月9日(日)に英国マンチェスターで開催される「UFC204」では、地元出身のミドル級チャンピオン、マイケル・ビスピン(37・英国)が、ダン・ヘンダーソン(46・米国)を迎え撃つタイトルマッチが行われる。
 ローカルヒーロー、ビスピンの凱旋(がいせん)に現地は話題沸騰、米国でのペイ・パー・ビュー生中継の時間に合わせるため、大会開始は現地時間で深夜12時、メインイベントはおそらく朝の5時過ぎになるという異様な時間での開催にもかかわらず、収容人員2万人超のマンチェスター・アリーナが前売り券発売初日、わずか6分間で売り切れてしまうという人気ぶりだ。

前回の対戦ではヘンダーソンがKO完勝

 両者の因縁は2009年にさかのぼる。ジ・アルティメット・ファイター(TUF)シーズン9で、ヘンダーソンがチーム・アメリカ、ビスピンがチーム・イギリスをそれぞれ率いて対決、数週間にわたる積み重ねで因縁を高め、日本時間2009年7月12日に開催された「UFC100」記念大会で恒例のコーチ直接対決に臨んだ。
 この時にはヘンダーソンがビスピンを“Hボム”として知られる強烈な右のオーバーハンド一発で完全ノックアウトしている。Hボムを食らったビスピンが、まるで雷が落ちたかのようにその場で硬直し卒倒、UFC史上最大級に印象的なノックアウトシーンとなった。完全にダウンしたビスピンのアゴに、ヘンダーソンが追い打ちのフィストドロップを決めたのは不要な一発だったのではないかとして論争も呼んだ。

遅咲きチャンピオン、ビスピン吠える

地元ファンの前でリベンジを狙うビスピン 【(c)Zuffa.LLC/(c)gettyimages】

「UFC204」に先立つ記者会見で、ビスピンはその試合を振り返って語っている。
「7年前のヘンダーソンは確かに見事な仕事をした。ただ、皆さんもご存じの通り、後に彼の不正が発覚した。彼はテストステロン補充療法※(TRT)を受けていたんだ。ダンこそがTRTの総本山だった。彼は試合をするためにどうしてもテストステロンの注射が必要だということだった。しかしTRTが禁止されてから数年たってみると、彼のテストステロン値は正常値に戻り、今でも戦っている。治療をやめたはずなのにテストステロン不全が治ったとでもいうのだろうか。だとしたら、この男はまったくもって現代科学が生み出した怪物である。彼の血液を使えば、ガンも治るのではないか。この男とヴィトー・ベウフォート(ブラジル)は、それほど異常な存在なんだ」

「ヘンダーソンはアンデウソン・シウバ(ブラジル)に勝てなかった。ヘンダーソンはUFCタイトルも取れなかった。ヘンダーソンはたった1つのことで有名になった。それは『UFC100』でこのオレをノックアウトしたことだ。オレがキミを有名にしてやったんだよ、ダン。でもそのレガシーも、『UFC204』をもって終えんを迎える」

 ビスピンは今年6月に開催された「UFC199」で、UFC戦績26戦目にしてようやく初めてのタイトルマッチにたどり着き、そのワンチャンスを見事に生かしてベルトを獲得した。ビスピンはこれまで、“この試合で勝てば次にはタイトル挑戦か”と目された試合で負けてしまうことが多かった。そして、ここぞというタイミングでビスピンに土を付けた相手、ヘンダーソン、ヴァンダレイ・シウバ(ブラジル)、チェール・ソネン(米国)、ベウフォートらは、ことごとくTRTユーザーだったり、後に薬物検査で失格したりしているのである。
 パフォーマンス増強剤さえなければ、ビスピンはとっくにチャンピオンになっていたのではないか……そのように見る向きが多かったからこそ、薬物検査が強化された今、ビスピンが遅咲きのチャンピオンになったことに、溜飲(りゅういん)を下げている選手やファンは少なくないのだ。

 もっとも、ヘンダーソンはTRTが合法であった時代に、合法的な手続きに則って利用していただけであり、不正があったとするビスピンの批判は当たらないとして受け流している。実際、ヘンダーソンが薬物検査で失格したことはない。

ヘンダーソンは今回が引退試合になると表明

今回が引退試合になると表明しているヘンダーソン 【(c)Zuffa.LLC/(c)gettyimages】

 ダン・ヘンダーソンはレスリングでオリンピックに2度出場(バルセロナ、アトランタ)、1997年からプロ格闘家に転向し、PRIDEのウェルター級、ミドル級の2階級王者、そしてStrikeforceのライトヘビー級王者に君臨したという歴戦のベルトコレクターである。Strikeforce時代には、あのエミリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)とのヘビー級でノックアウト勝ちも収めている。ただしUFCのベルトだけは、いまだ獲得していない。

 日本でもすっかりおなじみのベテランファイターは、大会前記者会見で今回の試合で引退する意向を明らかにしている。
「気持ち的には勝っても負けても、これで引退しようと思っている。身体の方はあと1、2年はできるかもしれないが、もう十分やったかな、これからはちょっと気楽に過ごしていこうかな、と思っているんだ」

「前回の試合(『UFC199』でのヘクター・ロンバート戦)で終わっても良いと思っていたんだ。試合前も、試合当日も同じ気持ちだった。試合から1週間たってもまだ、UFCが裏方仕事で雇ってくれないかなと思っていたんだ。そうしたらUFCから連絡があって、ファンからの要望が強いので、ぜひマイケル・ビスピン戦を組みたいということだった」

マンチェスターでビスピンをまた失神させてやる

 引退戦が敵地で行われることについてヘンダーソンは、「そりゃあ、ラストファイトは米国でやれればそれに越したことはないが、ベルトを手にして引退できるチャンスというのも、またとないチャンスだろう。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。自分の引退戦で、マンチェスターでビスピンをまた失神させてやるのも楽しいじゃないか」と意に介さない。

 ヘンダーソンは現役生活を振り返って、最もタフだった試合について「シウバとの初戦(2000年12月23日『PRIDE.12』)、あの時は自分の体調が悪かったこともあって、苦しかったね。それからヒョードルのパンチは実に強烈だったよ(2011年7月30日、Strikeforce:ヒョードル対ヘンダーソン)」と明かしている。

 ビスピンが勝てば、かつての屈辱にリベンジを果たし、ベルトを初防衛する姿を地元ファンの前で披露して、男をあげることになる。他方でヘンダーソンが勝てば、かつてのチームメイト、ランディ・クートゥア(米国)の記録を破り、UFC史上最高齢のチャンピオンとなり、主要団体のベルトのコンプリートを達成した上、ベルトを持ったまま引退するするという、格好良すぎる勇退劇となる。この大ベテラン同士が暁のマンチェスターで巻き起こす季節外れの桜吹雪舞台、そしてヘンダーソンの最後の勇姿を襟を正して正視しよう!(文:高橋テツヤ)

※テストステロンとは男性ホルモンの一種で、内用すると筋肉量増強や疲労回復などの効果がある。MMAファイターが内用することは原則として禁じられているが、米国の州コミッションではかつて、疾病によりテストステロン生成機能に不全があると認められる選手については、一定の審査の上で、血中テストステロン値を成人通常値にまで引き上げる目的でテストステロンを内用する治療法(TRT)が認められていた。現在はTRTが禁止されている。
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