辻発彦新監督が目指す新生西武の戦い方 ブレない「ビジョン」で「臨機応変」に

中島大輔

西武の新監督に就任し、居郷肇球団社長(右)と握手を交わす辻発彦氏 【写真は共同】

 新監督就任会見が始まる数分前、来季から埼玉西武を率いる辻発彦新監督について配られたプロフィールを見ると、あらためて目を引かれたのが選手時代の輝かしい功績だ。通算16年間の現役生活でベストナイン5回、ゴールデングラブ賞8回。1993年には首位打者を獲得している。

 80年代後半から「常勝西武」を名二塁手として支えた男は、95年を最後に選手、コーチとして他チームを渡り歩くようになっても、古巣のことが気になっていたという。

「常勝チームである西武ライオンズがここ数年低迷していて、なんでこういう状態にあるのかと自分なりに考えたこともあります。それだけのスタッフを持って勝てないところには、何かの原因があると思います」

方針が定まらなかった今季の西武

 今季も下位に終わり、35年ぶりの3年連続Bクラスに沈んだ要因は、チーム方針が定まっていなかったことが大きい。それを象徴するのが9月27日、辞任会見を開いた田邊徳雄前監督の言葉だ。「やりたい野球と現実のギャップ」について聞かれると、優勝戦線から脱落した後をこう振り返っている。

「ライオンズのチームの形は8、9月の戦い方がベストだったのかなという感じがしました」

 裏を返せば、夏までの戦い方に問題があった。すでに報じられているが、今季の西武では攻撃は橋上秀樹作戦コーチ、守備は潮崎哲也ヘッド兼投手コーチが采配を決めていた。コーチが作戦を決める例は特段珍しくはないが、今季の西武では機能しなかった。

 とりわけシーズン序盤、打順や先発メンバーが頻繁に入れ替わり、バントや小技のミスが目立った。無理もない。スタメンに並んだのは、小技より打力を持ち味とする面々だった。さらに勝敗を左右するようなエラーが頻発し、リーグ最多の101失策を記録。チームは伊原春樹元監督時代(2014年)に戻ったかのような雰囲気に包まれていた。

 夏場には優勝争いから脱落すると、自軍の投手陣では僅差のリードを守り切れないと見て、打ち勝つ野球に方針転換。優勝争いの重圧と無縁だったことは割り引いて考える必要がある一方、ようやく強い西武が見られた。

辻野球「まずは守りから」

 そうして迎えたシーズン終了直後の監督交代である。辻新監督にはブレないチーム作りが求められるなか、土台とすべきものをこう明かした。

「野球はピッチャーを中心にまずは守りから入っていかないと、143試合戦って優勝することはできないと思います。1点をいかにして取るか、いかにして守るかというところから始めたいと思っています」

 この発言の解釈として、堅固な守備を築き、小技を絡めてコツコツ得点を重ねていくともとれる。それは確かに今季見られなかった点という意味で、新チームの方針としてはキャッチーかもしれない。だがそうなれば、強かった今季後半戦から一気に戦い方を変えることになる。

 今季終盤、スタメンに並んだのは打撃重視のメンバーだった。守備には多少の難があるものの、打撃の魅力でそれを打ち消すことができる。たとえば、ファーストに入った山川穂高だ。守備では信じられないようなキャッチミスを犯す一方、打撃ではそれ以上に驚かせる弾丸本塁打を何本も打ち込んでいる。

 俗に言う「守備重視なら」山川はスタメンから外れることになるが、それで捨てるには惜しい打力がある。現にシーズン終盤、チームは打撃を全面に押し出したことで復調した。

攻撃か守備かの二極論ではなく

 それでは、辻新監督は現状の打線が奏でる攻撃力を維持したうえで、守備力も上げていこうと考えているのだろうか。

「見ている限り、(スタメンは)確立されていますよね。その(メンバーの)技術が上がってくれば、もっとこっちも安心して見られるんじゃないかと思います。守備でのミスが勝敗に左右するので、『(守備が)どうかな?』というときにはそこそこ打っても(起用せず)、ちょっと打てないけれども守りがしっかりしていれば(使う)、という気持ちになるかもわからないです。それ以上に打ってくれればいいんですけど、打つほうだけは水もので、いいピッチャーには必ず打てるという保証はありませんから。そういう意味で、守りが非常に大事になってくると思っています」

 攻撃も守備も高レベルで備えている選手は、プロの世界でもそう多くない。だから攻撃型、守備型という二極論は意義が薄い。実戦ではベンチが「この試合では攻撃重視」「この場面では守備重視」と的確に判断し、状況によって手を打っていく必要がある。そうした選手起用をできれば、仮にメンバーが変わったとしても、ブレずに方針を持って戦っているといえる。辻監督の言葉から判断する限り、そうした戦い方を意図しているように聞こえてくる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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