オシムさんと“阿部ちゃん”の師弟関係 ライター島崎が語るJリーグの魅力(3)

島崎英純
 本連載は「Jリーグの魅力について」というお題目です。責任重大。すでに第1回、そして第2回を執筆したのですが、早くも第3回目の締切日が来てしまいました。私、先日までドイツへ出張していたのですが、虫の知らせか、ただならぬ胸騒ぎがして夜も明けきらぬ早朝に目を覚まして傍らのノートパソコンを開くと、ポコンとメールの受信通知が……。案の定、スポーツナビ編集部の見目麗しき担当編集者さんからの原稿締め切りの念押しメールでございました。僕のよからぬ直感はだいたい正しいことを、この時に実感致しました。

06年にJ1優勝を果たした浦和の壮麗な陣容

06年シーズンのレッズは、J1最終節でガンバ大阪を下して悲願のJリーグ制覇を達成 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 さて、今回は2005年シーズン、そして06年シーズンのJリーグに関連した話題を少しクローズアップしたいと思います。私の取材フィールドは主にJリーグの浦和レッズです。そして浦和サポーターの方々ならば、「2006シーズン」という年号に特別な思いを抱く方もおられるでしょう。そう、西暦2006年はレッズがこれまでで唯一、J1リーグ優勝を果たしたシーズンなのです。

 06年当時の浦和はギド・ブッフバルト監督に率いられた精鋭チームでした。1トップは元ブラジル代表の“大砲”ワシントン、ダブルトップ下には稀代のプレーメーカーであるロブソン・ポンテ、さまざまな意味でチームのレジェンドである山田暢久が居並び、ボランチには“天才”小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)、あるいは“水を運ぶ”鈴木啓太と、現在の日本代表キャプテン・長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)が双璧を成します。そしてサイドには三都主アレサンドロと平川忠亮の“槍”が立ち、バックラインは田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)、ネネ、坪井慶介(湘南ベルマーレ )が鎮座。そして最後尾のGKは都築龍太、もしくは“山神様”山岸範宏(モンテディオ山形)という陣容でした。

 うーん、確かにこの陣容は壮麗です。しかもベンチには細貝萌(シュツットガルト/ドイツ)、永井雄一郎(ザスパクサツ群馬)、相馬崇人(ヴィッセル神戸)、岡野雅行らが控えているんですよ。この強力布陣で戦った06年シーズンのレッズは、J1最終節でガンバ大阪を下して悲願のJリーグ制覇を達成します。今思い出しても、あの時の埼玉スタジアムの荘厳な雰囲気は素晴らしかったなぁ。でも、今回はそのお話ではありません。

 06年シーズンの浦和のJリーグ成績は22勝6分け6敗で勝ち点72でした。その中で、僕が最も思い出深い一戦として挙げたいゲームは06年5月3日のJ1第11節、フクダ電子アリーナでのジェフユナイテッド千葉vs.浦和の一戦です。

衝撃的なチームだったオシムさん率いるジェフ

オシム監督が率いたジェフの「すさまじき攻守転換の嵐」には衝撃を受けた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 当時のジェフを率いていたのはイビチャ・オシムさん。言わずと知れた東欧の名将です。レッズは前年の05年シーズンにもオシム監督率いるジェフと第32節で対戦していて、その時は水野晃樹選手(ベガルタ仙台)の決勝ゴールでジェフが勝利し、リーグ優勝争いを繰り広げていたレッズは手痛い敗戦を喫してタイトル争いから後退したという因縁がありました。

 いやー、オシムさんが率いたジェフは本当に衝撃的なチームでした。このチームを端的に形容するならば、「すさまじき攻守転換の嵐」です。攻撃から守備、守備から攻撃への移行速度が尋常ではありません。自陣でボールを奪取すると、GK以外のフィードルプレーヤー全員が敵陣へ殺到しますし、逆に相手にボールを持たれると複数の選手がボールホルダーへ猛アプローチします。

 フクダ電子アリーナの記者席で取材していた僕は、ジェフの激しい攻守転換スピードと状況判断の鋭さに思考が追い付かず、「あっ、あっ、わっ、うっ」などと感嘆符しか発せない状況に陥りました。惜しみない労力、絶え間ない連動はチームスポーツの原点を感じさせるのですが、その基本に忠実な姿勢が逆に新鮮な風を巻き起こす。まさに当時のジェフはJリーグ史上に燦然(さんぜん)と輝くエポックメーキングなチームでした。

 06年5月3日。試合開始1分に羽生直剛選手(FC東京)が放ったシュートをGK山岸が右足一本でセーブした瞬間に、レッズの苦闘を予見しました。その後もジェフの強烈なカウンターアタックとすさまじいプレス&チェイスに晒されたわがアウェーチームは防戦一方となります。そして73分、巻誠一郎選手(ロアッソ熊本)の強烈なポスト直撃シュートが決まってジェフが先制。ごう音鳴り響く中ですから聞こえるはずもないのに、僕の耳の奥底には巻選手のシュートがポストに当たった時の「コン!」という音がいまだに残っているんですよね。まあ、気のせいなんですが……。

 そして最後は、89分にバックライン裏を突いた中島浩司選手が右足シュートを突き刺してダメ押しの2点目をゲット。これでジェフが“風雲昇り龍”の勢いだったレッズの鼻っ柱を折る格好となりました。この試合後の記者会見でオシムさんが、内外のプレッシャーを浴びながらタイトル争いを繰り広げるレッズの境遇を指して、「浦和の敵は浦和」と述べたセリフはオシム語録として有名にもなりました。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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