「スポーツによる地域創生」とは何か? 今治アドバイザリーボードが語る最新事情

宇都宮徹壱

8月末、「スポーツによる地域創生」をテーマにしたイベント「バリ チャレンジ ユニバーシティ」が行われた 【宇都宮徹壱】

「地域の改革と創造 次代へ挑戦する若者へ」──これが、バリ チャレンジ ユニバーシティ2016のキャッチコピーである。

 バリ チャレンジ ユニバーシティとは、今年の8月26日から28日までの3日間、高校生や大学生、そして若い社会人を今治市に集め、「スポーツによる地域創生」をテーマとした講演会やワークショップを行うというもの。このイベントはFC今治のオーナーである岡田武史氏が実行委員会学長を務め、同クラブのアドバイザリーボードメンバーが多数参加している。100人の定員に対して応募者は約450人。岡田武史オーナーの今治でのプロジェクトが、若い世代の間でも大きな関心を集めていることをあらためて感じさせる数字である。

 さて、「スポーツによる地域創生」はFC今治にとっても大きなテーマのひとつである。とはいえ、そのイメージは各人によってさまざまであろう。そこで今回は、アドバイザリーボードの1人で、バリ チャレンジ ユニバーシティのトークイベントでも司会を務めた、間野義之氏に話を聞いた。間野氏は早稲田大学のスポーツ科学学術院教授という肩書を持つ一方、自治体のスポーツ振興の委員やプロリーグの理事としても活躍している。

 今回のインタビューは、「スポーツによる地域創生」のトレンドをマクロ的にとらえることを目的としている。そのためFC今治に関する言及は限定的であることを、あらかじめお断りしておく。とはいえ間野氏の話は、FC今治や岡田オーナーが推し進めようとしているプロジェクトにも、重なる部分が少なくない。さっそく「スポーツによる地域創生」の最新事情をお伝えすることにしよう。

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」は地方にも恩恵がある?

早稲田大学のスポーツ科学学術院教授の間野義之氏 【宇都宮徹壱】

――さっそくですが、間野先生の専門分野について確認させてください。具体的にどんなことを学生に教えていらっしゃるのでしょうか。

 大学ではメーンで「スポーツ政策論」というのを教えています。マクロではスポーツ実施率。スポーツ人口を増やす、あるいはスポーツ産業を成長させるという研究をしています。ミクロでは、例えばクラブだったりスタジアムであったりの持続可能な政策のあり方、要するに「いかにお金を回していくか」ということですね。

――スポーツと地方行政というテーマは、先生も長年関わってこられたかと思いますが、このところ変化のようなものを感じていらっしゃいますか?

 感じていますね。これは法律改正が大きいです。2007年に地方教育行政に関わる法律が改正されまして、それまでスポーツ行政というのは法律によって教育委員会の業務として行うことが決められていたんです。それが都道府県や政令市レベル、あるいは知事部局や市長部局といった各首長部局でスポーツ行政を行うことができるようになりました。

 教育委員会でやっていたことの利点としては、学校体育との連携ができることだったんですけれども、課題としては教育行政の範ちゅうから出られない。つまりスポーツの産業化という部分での話がなかなかできなかったわけです。11年にスポーツ基本法に改正されるまでは、商業的なスポーツはスポーツ振興法から除外されていました。つまり、学校体育か社会体育だったんです。それが首長部局へ移行したことで、産業や商業の話ができるようになったり、より多くの予算をかけられるようになったりしたわけです。

――首長部局がスポーツに大きな予算をかけるタイミングとしては、たとえば国体であったり、あるいはワールドカップ(W杯)や五輪のような国際イベントであったりが大きな契機になるかと思います。19年のラグビーW杯、20年の東京五輪、そして21年の関西ワールドマスターズゲームズ。先生はこの3年間を、日本のスポーツ界に追い風が吹く「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と位置づけていますが、それは東京だけでなく地方についても言えることでしょうか?

 地方にもチャンスはあると考えています。ラグビーW杯は東京を含めて12の都市で開催されますし、東京五輪も男女のサッカー競技が宮城や札幌などで行われます。関西ワールドマスターズゲームズは8府県4政令市で行われる予定で、四国の徳島も入っています。そうして考えると、実際に競技が開催されるのは47都道府県の半分には届かないかもしれないけれど、東京以外でも恩恵のある自治体はあると思います。

――あとはキャンプ地ですよね。

 そうですね。IOC(国際オリンピック委員会)には205の国と地域が加盟して、競技種目はリオ五輪までは28。東京五輪では33競技になるわけです。大ざっぱに言うと、205×33のキャンプ地が必要となる。ロンドン五輪の時、実は日本の陸上連盟はドイツのフランクフルトで事前合宿をやっているんですけど、東京五輪はファーイーストでの大会ですから、地政学的に考えて、中国や韓国や台湾をキャンプ地に選ぶのは考えにくい。そういった意味でも、このゴールデンイヤーは地方にとっても大いなるチャンスがあると考えます。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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