記憶に残る甲子園の大逆転劇の裏で――八戸学院光星はあの一戦で何を思ったのか

沢井史

甲子園史上に残る逆転劇で敗れた八戸学院光星。あれから3週間、当時何を思ったのか。来春のセンバツへ向けて新チームが始動する中、仲井監督らにあの一戦を振り返ってもらった 【沢井史】

 あれから3週間近くが経ち、いつもと変わらない声が飛び交う青森県八戸市内にある八戸学院光星グラウンド。新チームは8月末の地区大会を終え、県大会に向け走り出していた。1、2年生がランニングを始めると、引退したばかりの3年生たちがグラウンドに出てきた。3年生は寮に残っている者がほとんどで、現役を終えても連日体を動かしている。

異様な光景の中でゲームセット

 8月14日。第98回全国高等学校野球選手権大会2回戦の第3試合、東邦高(愛知)vs.八戸学院光星高は、まれに見る“異様な光景”が包み込み、ゲームセットを迎えた試合だった。

 この試合に関しては大会を終えても既にいくつものメディアが報じているが、高校野球ファンの心の中には強く印象に残っているだろう。9回裏、東邦高が4点差をはね返し劇的なサヨナラ勝ちを収めた試合だ。その試合を報じる新聞や雑誌には「ミラクル」「大逆転劇」という見出しが躍っていたが、少しいたたまれない気持ちになった者もいたのではないだろうか。

9回裏に4点差をひっくり返した東邦が劇的なサヨナラ勝ちを飾った 【写真は共同】

 甲子園の観客は、劣勢のチームには優しい。劣勢のチームが少しでも押せ押せムードになると、観客からドラマを期待する熱気の波が徐々に押し寄せる。それがやがて手拍子となり大きな歓声になり……。過去の試合でも、幾度となくこのような光景は見られた。

 2009年夏の甲子園の決勝戦は、日本文理高(新潟)が中京大中京高(愛知)を相手に、6点ビハインドの9回裏2死走者なしから、怒涛の反撃で1点差まで詰め寄った。あの時もスタンドが“劇場化”していた。

いつもと違う空気を感じた9回裏

 ただ、この試合は少し違った。9回裏の攻撃の始まりからすでに大きな手拍子が響き渡っていたのだ。テレビからも、その手拍子の迫力は手に取るように分かった。

 9回裏の守備についた時、キャプテンで捕手の奥村幸太はいつもと違う空気を感じていた。

「自分たちは(青森の)県大会でアウエーの雰囲気の中で試合をすることはよくあるんです。(今夏の1回戦で戦った地元・兵庫の)市尼崎戦もそうでした。でも、9回の裏は……歓声を気にせずにやろうと思っても、どうしても目線にスタンドが入ってしまって気にせずにいられなくて……」

 春夏通算19勝を挙げ、甲子園を熟知している仲井宗基監督ですら、声援が嵐のように押し寄せてくる応援は独特のものがあったと振り返る。

「(9回裏は)いきなりブォンっていう感じで音が響いたんですよ。“うわ、来てるな”って。東邦さんの応援はそれぐらい体にも響くものがあったんです」

 東邦高のブラスバンドの軽快なリズムに乗って、次第に観客の手拍子が大きくなっていく。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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