記憶に残る甲子園の大逆転劇の裏で――八戸学院光星はあの一戦で何を思ったのか
甲子園史上に残る逆転劇で敗れた八戸学院光星。あれから3週間、当時何を思ったのか。来春のセンバツへ向けて新チームが始動する中、仲井監督らにあの一戦を振り返ってもらった 【沢井史】
異様な光景の中でゲームセット
この試合に関しては大会を終えても既にいくつものメディアが報じているが、高校野球ファンの心の中には強く印象に残っているだろう。9回裏、東邦高が4点差をはね返し劇的なサヨナラ勝ちを収めた試合だ。その試合を報じる新聞や雑誌には「ミラクル」「大逆転劇」という見出しが躍っていたが、少しいたたまれない気持ちになった者もいたのではないだろうか。
9回裏に4点差をひっくり返した東邦が劇的なサヨナラ勝ちを飾った 【写真は共同】
2009年夏の甲子園の決勝戦は、日本文理高(新潟)が中京大中京高(愛知)を相手に、6点ビハインドの9回裏2死走者なしから、怒涛の反撃で1点差まで詰め寄った。あの時もスタンドが“劇場化”していた。
いつもと違う空気を感じた9回裏
9回裏の守備についた時、キャプテンで捕手の奥村幸太はいつもと違う空気を感じていた。
「自分たちは(青森の)県大会でアウエーの雰囲気の中で試合をすることはよくあるんです。(今夏の1回戦で戦った地元・兵庫の)市尼崎戦もそうでした。でも、9回の裏は……歓声を気にせずにやろうと思っても、どうしても目線にスタンドが入ってしまって気にせずにいられなくて……」
春夏通算19勝を挙げ、甲子園を熟知している仲井宗基監督ですら、声援が嵐のように押し寄せてくる応援は独特のものがあったと振り返る。
「(9回裏は)いきなりブォンっていう感じで音が響いたんですよ。“うわ、来てるな”って。東邦さんの応援はそれぐらい体にも響くものがあったんです」
東邦高のブラスバンドの軽快なリズムに乗って、次第に観客の手拍子が大きくなっていく。