初戦を失った日本に求められる「謙虚さ」 UAE戦の敗因と最終予選の厳しい現実

宇都宮徹壱

アジアカップのリプレーを見ているようなUAE戦

W杯アジア最終予選の初戦、日本対UAEの試合はまるでアジアカップのリプレーを見ているかのようだった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「オーストラリアで行われた2015年のアジアカップで、われわれは日本と試合をした。結果はご存じのとおり、最終的にわれわれが(PK戦で)勝って先に進むことができたが、それは過去のことだ。1年8カ月前の出来事であり、歴史の一部だ。われわれにとって、明日は別の試合になる。われわれは未来を信じ、それに向けてしっかり準備をしてきた。われわれは明日、ベストを尽くして、夢のために勝ちたい」

 ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、日本対UAE戦の前日会見(8月31日)で、UAE代表のマフディ・アリ・ハッサン監督はこのように語っている。重要な初戦の相手がUAEであることについて、日本側から「アジアカップのリベンジ」というフレーズが聞こえてくるのに対し、アリ監督の対応は至って冷静。確かにこの試合は、アジアカップでの悪夢と切り離して考えるべきであった。ところが日本が逆転されてからの展開は、まるでシドニーで行われたアジアカップ準々決勝のリプレーを見ているかのようであった。攻めても攻めても相手のブロックに弾き返され、シュートはあとわずかのところで相手GKのファインセーブに阻まれ、そしてUAEの選手たちは執拗(しつよう)に時間稼ぎを繰り返す──。

 それでもアジアカップでの日本は、後半36分に同点に追いつくことができた。だが、この日の日本は1点のビハインドを覆すことができないまま、終了のホイッスルを聞いた。W杯のアジア最終予選がホーム&アウエー方式になって以来、初戦で敗れたのは今回が初めて。埼玉スタジアムでの「公式戦無敗」も、19試合目で途絶えることとなった。試合直後、スタンドからブーイングが沸き起こる。ただしその矛先は、日本のふがいなさよりも、この日のジャッジに向けられているように感じられた(この件については後述する)。

 確かに不運もあったし、すべてが終わったわけでもない。とはいえ、これまでの3大会(06年ドイツ、10年南アフリカ、14年ブラジル)の予選とは明らかに異なる状況に、われわれが立たされているという事実は、しかと受け止めなければなるまい。日本代表の戦力と経験値と実績を考えるなら、このグループで2位以内となることは、さほど困難ではない。少なくとも、戦前はそう思われていた。しかしながら、この最終予選を楽観できない要素もまた、確実に存在していた。一番の不安要素、それは「日本はもはやアジアの絶対的な強国ではない」という、アジアカップで突きつけられた厳しい現実である。

準備期間の少なさ、コンディションのバラつき、けが人の多さ

代表戦100試合出場を達成した長谷部とコンビを組んだのは大島僚太。これがA代表初キャップとなった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 最終予選の初戦の相手がUAEであることに、何やら不吉めいたものを感じていた人は少なくなかったと思う。その点に関して、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は入念なスカウティングで対応できると信じていた。むしろ、それ以外で懸念すべきことは3点あった。すなわち、(1)事前練習の期間が限られていること、(2)選手のコンディションにばらつきがあること、(3)本番直前にけが人が続出したこと、である。試合を振り返る前に、この3つの懸念事項について確認しておきたい。

 まず(1)について。これはUAEと比較しての話である。ハリルホジッチ監督は「彼らは2カ月の準備期間があり、われわれは2日しかなかった」とぼやいているが、準備期間が限られるのは代表戦では当然の話だ。UAEは国内リーグがオフシーズンで、欧州でプレーする選手もいないため、2カ月に及ぶ長期合宿が可能となった。そのことで、確かに連係はスムーズになるだろうが、チーム内にストレスが蔓延するリスクも否定できない。重要なのは合宿期間の長さよりも、試合に向けていかにピーキングできるかである。

 次に(2)に関してだが、シーズン真っただ中の国内組と、シーズンが始まったばかりの欧州組との間にコンディションのバラつきがあるというのは、過去にもたびたび見られた現象だ。ハリルホジッチ監督も、十分にそれを折り込み済みでメンバーリストを作成していた。対するUAEも「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の準々決勝(8月23日、24日)に出場した選手が10人いるので(アル・アインが8名、アル・ナスルが2名)、コンディションにばらつきはある」(アリ監督)という状態だった。

 そして(3)。招集メンバー24名のうち、槙野智章と長友佑都が負傷のため合流できず(代わりに遠藤航と丸山祐市を追加招集)。また試合前日になって、柏木陽介と昌子源が、それぞれ左股関節と左内転筋に違和感を覚えたため、いずれも大事をとって練習をキャンセルした(その後、昌子はチームを離脱したため植田直通を追加招集)。特に柏木は、この試合で長谷部誠とコンビを組むことが有力視されていたため、誰がこのポジションを埋めるのかが注目された。

 このように懸念すべき点はあるにはあったが、さりとていずれも決定的なものではない──というのが、多くのファンが感じていたことであろう。そんな中、指揮官が選んだスターティングイレブンは以下のとおり。GK西川周作。DFは右から、酒井宏樹、吉田麻也、森重真人、酒井高徳。中盤は守備的な位置に長谷部と大島僚太、右に本田圭佑、左に清武弘嗣、トップ下に香川真司。そしてワントップに岡崎慎司。大島は柏木の代役として、この試合で代表戦100試合出場を達成した長谷部の隣でA代表初キャップを刻むことになった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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