22年ぶり白星、88年ぶり4強――全国最多37回目の出場校・北海の躍進

楊順行

聖光監督も脱帽したしぶとい打線

88年ぶりの4強進出を決め、応援席に向けて駆けだす北海ナイン 【写真は共同】

  なんと88年ぶりである。北海高(南北海道)が夏の甲子園でベスト4に進出したのは、1928年のことなのだ(当時は北海中)。

 聖光学院高(福島)との準々決勝。初回、三塁手・佐藤佑樹のフライエラーから始まって、エース・大西健斗が3点を失うイヤな展開だ。相手投手は前日、3カ月ぶりの実戦登板という「奇襲」(斎藤智也監督)で、東邦高(愛知)に2失点完投した鈴木駿輔。本来外野手だが、力のある直球がいい。

 だが、北海は2回、2点を挙げると、4回にはその佐藤佑が逆転のタイムリー。5回には、2年生・川村友斗の2試合連続アーチなどで突き放す。結局、聖光学院の4投手に計12安打を浴びせ、「2ストライクまではきっちりフェアゾーンに、追い込まれるとファウルで逃げるしぶとい打線」(斎藤監督)と、7対3で聖光を圧倒した。

 川村は明かす。

「冬場の振り込みで、みんなスイングスピードが上がりました。それと、(愛媛・松山聖陵高との)初戦で2本ヒットを打てたことで、積極的にバットを振れています。実は、クラーク国際高(北北海道)とは同じホテルだった。同じ北海道のチームとして、クラークを破った聖光に勝てたのはうれしいですね」

 140キロ超の直球と、スライダーを主武器にする大西は、スイスイと1失点で完投した前日に続き、自責点ゼロで完投。そういえば、前日の日南学園高(宮崎)戦でも佐藤佑のエラーからピンチを招いたが、「佑樹がやってしまうのはいつものこと。アイツには、打って取り返してもらえばいい。“いつも通り、いつも通り”と、むしろ緩みが締まりました」と笑顔で語っていた。そして聖光戦も、終わってみれば初回の3失点だけ。ピンチはあっても、小野雄哉遊撃手らを中心にした堅守でしのいだ。

98年就任の平川監督は夏初勝利

 古豪・北海高。夏は全国最多37回目の出場で、「南北海道の優勝旗を見ると、歴代優勝のリボンが“北海”ばっかりでした。そういうときに、重みを感じます」(川村)。

 その古豪にして、88年ぶりの4強である。1928年といえばアメリカ発世界恐慌の前年で、もう世界史レベルの話だ。それ以後の北海は、センバツで63年に準優勝があるが、最多出場の夏は、94年のベスト8を最後に初戦敗退が5回続いた。つまり、夏の白星自体が22年ぶりで、98年に就任した平川敦監督にとっては、夏初勝利ということになる。

「2年目の99年夏に出場しましたが、そこから苦しかったですね。駒苫(駒大苫小牧高)全盛の時代もあって、8年間は春夏ともに甲子園から遠ざかりました。出て当たり前だった古豪だけに、毎年のように知らないところで辞任の噂が流れましたよ(笑)。でも、ガマンしかありません。

 私は監督として5回目の夏ですが、これまでは3日目あたりまでの試合が多く、ややあわただしかった。それが今回は6日目の初戦で、調整方法などに多少余裕がありました。それと過去の経験を洗い出し、暑さ対策にも気を配ってきた。地元では室内練習場でストーブを焚き、35度くらいの状況で練習してもきたんです。そのせいか、こちらにきてからはむしろ、朝晩は涼しいと感じるくらいでしたね」

昨夏の開幕戦大敗を忘れない

 そして聖光学院戦では、一人で3つのエラーを犯しながら2安打1打点と、ある意味で一人舞台だった佐藤佑。松山聖陵との初戦では大会最多タイとなる個人1試合5残塁を記録したが、それだけ打撃が好調ということだ。事実、3試合通算12打数7安打と、打での貢献は大きい。さらに昨夏、一塁手として出場し、開幕戦で鹿児島実高に大敗(4対18)した悔しさも忘れてはいない。

「ことあるごとに、あの試合のビデオを見てやる気をかき立ててきました。次も全力で行きます」

 準決勝は、秀岳館高(熊本)が相手だ。

「土井晩翠さん作詞の校歌は、全国有数のすばらしさだと思います。これを聴いて、泣くというOBの方も多い」(平川監督)

 週刊朝日増刊「甲子園2016」をひもとくと確かに、気高さが香る歌詞。もう1度校歌を聞くことになれば、北海としては初めての夏の決勝進出となる。

イケメンエースとして話題の140キロ右腕・大西。3試合連続完投で北海を4強進出に導いた 【写真は共同】

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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