元プロ監督の市尼崎が体現した高校野球 33年ぶり甲子園出場で悔いなき初戦敗退

週刊ベースボールONLINE

池山以来の出場に2万6000人

市尼崎高を率いる竹本監督(右端)は元プロ。九州学院高、中京大を経て阪急・オリックスで投手だった。現役引退後に保健体育科の教職課程を取得し、アマチュア資格を回復。今回が指導者として初の甲子園で、学んだことが多々あった 【写真=BBM】

 最後まであきらめない。球児の誰に聞いてもそう、答える。高校野球のあるべき姿を、市尼崎高(兵庫)は2万6000人で埋まった甲子園球場で体現した。

 八戸学院光星高(青森)との1回戦。一塁アルプスのチケット3600枚は完売し、入り切れないファンが、ライトスタンドまで押し寄せた。地元・兵庫の代表校に加え、池山隆寛(現東北楽天1軍打撃コーチ)が在籍した1983年以来33年ぶり2回目の出場に、聖地は「ICHIAMA」のホームとなった。

安定のバッテリーで終盤勝負

 市尼崎高を率いるのは、元プロの竹本修監督。2000年から同校を指揮も一度退任し、14年に復帰している。「以前は視野が狭かったが、周りが見えるようなった」。今回のチームは前評判が高くはなかった。昨秋は県大会3回戦で敗退し、今春は初戦(2回戦)敗退。

 竹本監督は「食らいついて勝ってきたチーム」と粘りが特長と語ったが、その背景にはエース右腕・平林弘人(3年)と2年生捕手・谷尻尚紀の「バッテリー」への全幅の信頼があった。今夏の県大会も8試合で11失点。3点以上取られたことがなく、失点が計算できるから、終盤勝負へと持ち込める。

 5回戦では西宮今津高との延長15回引き分け再試合を制し、報徳学園高との準々決勝は1対0、社高との準決勝は5対3、センバツ8強・明石商高との決勝は3対2と、いずれも手に汗握る接戦を勝ち上がり、悲願の甲子園切符をつかんでいる。

プロで入るより感激した甲子園

 1回戦を控えた試合前取材。竹本監督は「私が一番、緊張しています」と言った。朝8時開始の第1試合に備え、3時30分に起床し、4時過ぎに朝食を取り、5時10分には宿舎を出て、同30分に甲子園入り。「これっ……5時30分の風景かな? まるで9時みたいだった……」と、イチアマ関係者の出足の早さに、独特な表現で驚きを示した。

「プロで(甲子園に)入ったときよりも感激、感動しました。神港学園高の北原(光広)先生から『原色で記憶に残るぞ』と。確かに開会式で緑(芝)、黒(バックスクリーン)、白(スタンド)が目に入りました」

感謝の気持ちで土壇場に追いつく

 試合は市尼崎高が初回に先制したものの、グラウンド整備直後の6回表、一挙4失点で勝ち越される。流れが変わる、警戒していたタイミングも、相手の集中力が上回った。市尼崎高は7回に1点を返すも、2点ビハインドで最終回を迎えた。竹本監督は円陣で「スタンドを見ろ! 聞いたことないやろ」と言った。指揮官の座右の銘は「男らしく生きろ」。正直に真っすぐ生きる。市尼崎高ナインはこの状況を、冷静に受け止めた。

 答えは一つ。感謝の気持ちを、プレーで出すしかない。「アルプスが打たせてくれたヒット」と、主将・前田大輝(3年)がレフト前ヒットで口火を切ると、土壇場で同点に追いついた。しかし、10回は内野手の2失策が絡んで勝ち越しを許してしまい、4対5で市尼崎高は初戦で散っている。

甲子園の記憶に刻まれた4色

 引き揚げてきた竹本監督は「普通の子どもたちが、甲子園で成長した姿が見られてうれしい。誇らしかった」と感極まって、涙を流した。

「アルプススタンドの光景は、忘れることはありません」

 試合後のあいさつで、埋め尽くされたオレンジのメガホンがまず、目に飛び込んできた。甲子園の記憶に、4色が深く刻まれた。

(文=岡本朋祐)
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