数値化できないBMにもチャンスあり コンサル目線で考えるJリーグの真実(6)

宇都宮徹壱

クラブオーナーであることで得られるバリュー

海外では、試合日のスタジアムのVIPルームがビジネスの社交場となることもある 【写真:アフロ】

──「数値化できないBM」というテーマに話を戻しますけれども、すぐ思いつくところですと、ホームタウン活動やアカデミー活動というところが該当するような気がします。本来、選手はピッチ上で結果を出すことが求められるわけですが、それ以外にも地域の人たちと触れ合ったり、子どもたちにサッカーを教えたりすることで、回りまわって集客につなげようと努力しているクラブも少なくないと思うのですが。

 当然、あると思います。そうした努力が最終的に入場料収入に結びつくこともあるでしょうし、アカデミーで教えたお子さんが実は企業のおエライさんのご子息で、そこから「じゃあ、ウチもスポンサーに」なんて話になるかもしれない。それこそ「風が吹けば桶屋がもうかる」みたいな(笑)、どこでどうつながるか分からないということもありますしね。

──地方のクラブだと、十分にあり得る話だと思いますよ。実際、似たような話は結構聞いていますから。

 スポーツビジネスの面白さのひとつは、そういった意外な接点というものが結構転がっていて、ちょっとしたきっかけで、いきなりトップに話がつながることがある、といった特性だと思っています。たとえば私がいきなり「社長とお話がしたいんですけれど」と言っても、普通ならまず会ってくれません(苦笑)。

 でも、われわれが今回作ったJMC(J-League Management Cup)という冊子をある社長さんがご覧になって、「ちょっと話が聞きたい」ということになれば、そこで接点ができるわけですよね。なぜそうなるかというと、サッカーやスポーツが業種や業態、個人の役職や国籍を問わず、万人共通の尺度としての価値があるからだと思います。

──欧州、それこそプレミアリーグが顕著ですけれど、試合がある日のVIPルームがビジネスの社交場となるのも、そういった理由に起因するんでしょうね。

 クラブオーナーにもいろんなタイプがいると思いますが、その地位にいることによって、オーナー同士やビジネスパートナーたちとのネットワークが得られることにバリューを感じているわけですね。そのバリューが、具体的にどれだけの金額換算となるのかは分かりませんが、目に見えないスポーツの価値というものは間違いなくある。その価値というものは、今はまだ可視化するのは難しいかもしれないけれど、これまでとは異なる発想を持ち込むことで、もしかしたら新たな指標ができるかもしれない。そこの可能性はまだまだあるんじゃないかと思っていて、そのための仕組みをデロイトとして作りたいというのはありますね。

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知られざる清水の「カーボン・オフセット」活動

ヴィッセル神戸のホーム、ノエビアスタジアム神戸ではサポーターが跳びはねる振動を電力に変える仕組みを取り入れている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

──「数値化できないBM」というのは、何をもって成功とするのは難しいところはあります。それを踏まえて里崎さんが注目しているクラブはあります?

 僕が面白いなと思ったのは、清水エスパルスの「カーボン・オフセット」活動ですね。あまり知られていないと思いますが、二酸化炭素の排出権買い取りの活動を2007年くらいからやっているんです。スタジアムに人が集まると、多くの二酸化炭素が排出されるし、ペットボトルも消費される。自分たちが排出した二酸化炭素の量を計算して、その分の排出権を購入してオフセットにする。つまり、クラブとしてそこまで環境問題と向き合っていますよ、という活動なんですよね。

──そうしたエコ活動をクラブとして率先してやっているのは、非常に面白いし画期的ですね。もっと知られていい話だと思います。他にもそうした事例はありますか?

 エコ活動の延長線上でいうと、湘南ベルマーレや水戸ホーリーホックは電力事業の多角化やソーラー事業に取り組んでいますし、ヴィッセル神戸のホーム、ノエビアスタジアム神戸ではサポーターが跳びはねる振動を電力に変える仕組みを取り入れていますね。そうした取り組みというものが、将来的にクラブの大きな収入になるとは必ずしも言えませんけれど、今後は社会的にも注目されていく可能性は十分にあると思います。
──注目という点でいえば、もちろん各クラブが公式サイトなどでアピールしているとは思うんですけれど、まだまだ一部でしか知られていないのは残念ですね。

 ただ単にやらされているものではなくて、きちんと主体的に戦略を持ってホームタウン活動をするクラブが増えてほしいですね。と同時に、それを評価してあげる仕組みを作っていかないと、クラブとしてもインセンティブ(目的を達成するための刺激)が働かないと思います。もちろんクラブも情報発信すべきだと思いますが、リーグとしてもそれを促進していくような仕組みづくりが必要になるでしょうね。逆に清水がやっているカーボン・オフセットの活動を「今後はJリーグ全体でやっていきましょう」と提唱すれば、今度はいちクラブだけでなくリーグ全体が環境を第一に考える組織体というバリューが加わることになると思います。

──そうしたJリーグの姿勢に感銘を覚えて、新たなスポンサーを獲得する機会になるかもしれませんしね(笑)。今日のお話をまとめると、すべてのBMは数値化できないけれど、その中にも工夫次第ではビジネスにつながっていくチャンスはある、ということですね?

 きれいにまとめていただいて、ありがとうございます(笑)。何かのきっかけでクラブとの接点が生まれて、それが集客やスポンサー獲得につながれば、それはマネタイズできたと言えるわけなので、数値化できなくても無駄な活動にはならないはずです。そうしたフックになりそうなものは実はまだまだあるはずなので、そこは外側にいるわれわれのようなプレーヤーのアイデアや知見といったものも活用して、具現化していただければと思います。

<第7回に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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