履正社、横浜との横綱対決を制した理由 先発を読み違えても…対応力に自信あり

楊順行

藤平攻略ばかりを想定していたが…

履正社・山本は1点ビハインドの2回、横浜先発の石川のストレートを狙い打って特大の逆転3ランを放った 【写真は共同】

 横浜高(神奈川)の先発投手は、左腕・石川達也。履正社高(大阪)の岡田龍生監督が、「あの速い球をどう打ち返すか」ばかりを想定していた藤平尚真ではなく、だ。だが、室内練習場でのアップ中にそれを知らされた履正社ナインは、大笑いしたという。それは、自分たちの打線の対応力に自信があるからだ。

 岡田監督は、こう語る。

「今のチームは、打席に立った選手がその情報を持ち帰って、みんなで分析して共有することを徹底している。それが対応力につながるんです」

 さらに、高川学園高(山口)との初戦でも、好左腕の攻略に成功している。それが、先発予想が外れても笑っていられた理由だ。

屈指の好カードに早朝から満員札止め

 大会8日目、しかも日曜日。大相撲でいうちょうど中日(なかび)のこの日、千秋楽までとっておきたい横綱対決が甲子園で実現した。

 東の横綱、横浜。東北高(宮城)との初戦は、エース・藤平が7回途中まで13三振で1失点、打線も15安打で7得点を挙げて圧勝している。履正社は、西の横綱だ。やはりプロ注目の左腕・寺島成輝が、高川学園を2安打1失点に抑え、11三振を奪う完投。5対1の完勝だ。両者とも、優勝候補にふさわしい発進。この2回戦屈指の好カードに、甲子園は早朝から満員札止めである。

 なにしろ選手自身も、寺島とはU−15日本代表でチームメイトだった横浜・公家響主将が「心がはじける、ウキウキする感じです」と言えば、「150パーセントくらい楽しみにしてきた試合」とは履正社・井町大生捕手。こちらもわくわくしながらの、試合開始だ。

中断の間に「直球を上から叩こう」

 立ち合いは、横浜が鋭かった。ヒットと野選、犠牲フライというソツのなさで初回、1点を先制すると、その裏は石川が完璧な立ち上がり。「藤平と石川に優劣をつけず、2人でエースという考え。履正社打線に左が多いこともあり、今日は石川の先発を決断しました」(横浜・平田徹監督)というように、左打者3人をすべて直球で空振り三振だ。

 だが、2回裏、思わぬ水入りが訪れる。履正社の攻撃、1死二塁、打者・寺島の場面で雷雨による中断だ。43分後に再開すると寺島は三振したが、若林将平がヒットで続き、8番・山本侑度がレフトへ特大の逆転3ラン――。

「中断したこともあり、『石川はどんどん真っすぐで押してくる。それを上から叩こう』とみんなで話した」という山本も若林将も、石川のストレートを狙い打ってのもの。岡田監督の語る情報共有が、一気に流れを引き寄せた。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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