【UFC】喧嘩屋ロビー・ローラーの格闘哲学 不死身の男マット・ブラウンの復活は?

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新天地にATTを求めたローラー

遅咲きのウェルター級チャンピオン、ロビー・ローラー 【Getty Images】

 米国の総合格闘技団体「Strikeforce」がUFCに買収された2013年初頭、久々のUFC復帰を前にしたロビー・ローラー(米国)は古巣のミレティッチ・ファイティング・システム(MFS)を離れ、フロリダのアメリカン・トップチーム(ATT)を新天地に定めた。当時31歳のローラーの戦績はStrikeforce最後の4戦で1勝3敗だ。

 ATT創業者の一人、ダン・ランバートはローラーの入団当時のことを振り返ってこう語っている。「ロビーがUFCのチャンピオンになるなんて、入団当初から見通していたと言えばウソになる。入団当時の彼は決して好調ではなかった。22歳の若手ならともかく、もはや急に進化できるような年齢でもなかったからね。ただ実際にロビーがやってきてトレーニングを始めたところ、コーチ陣は“おや、待てよ、こいつはすごい……”と思い始めたんだ」

流浪のファイターの本領発揮

 2014年12月に開催された「UFC 181」で、ローラーは時の王者ジョニー・ヘンドリックス(米国)を下してUFCウェルター級チャンピオンとなった。UFC戦歴14試合目での戴冠は、チャック・リデル(米国)の13試合目という記録を破り、UFC史上最も遅咲きのチャンピオンである。ローラーはもともと2002年に19歳でUFC入りしたものの、上位陣の壁を破れず、2004年に故エバン・タナー(米国)に敗れてUFCからリリースされ、以降は弱小団体を渡り歩く一匹狼になっていった。

 UFC会長のデイナ・ホワイトは、19歳当時のローラーの大ファンだったという。「彼には私の強い希望でUFC入りしてもらったんだ。彼の力はずっと信じてはいたが、本気でタイトルを取りたいと思ってくれるようになるのに時間がかかったね。本来もっと早くチャンピオンになれたはずの男だ」と語っている。またMFS時代のチームメイトであるマット・ヒューズ(米国)は、「僕らはロビーのこれまでの道のりを知っているし、いい時も悪い時も応援してきた。彼は決して諦めることなくやってきた。こんなに誇らしいことはない。昔からロビーを応援している人もきっと同じ気持ちでいるに違いない」とローラー戴冠を祝福したものだった。

 遅咲きの大輪を咲かせたローラーだが、何が今回のブレイクのきっかけになったのだろう。その秘密についてローラー本人は次のように語っている。

「何か1つのことを大きく変えたというわけじゃないんだ。細かいことがたくさん積み重なって、戦い方に絞まりとまとまりが出てきた。小さなことの積み重ねなんだ。ATTのコーチ陣がそういう小さなことを全部教えてくれた。“どうして誰もこんなことをこれまで教えてくれなかったんだろう!”と思うようなことばかりだよ。ごく単純な小さなことばかりで、簡単に飲み込めるようなことばかりだったから、すぐに自分の戦い方に取り入れたんだ」

 このことをコーチの側から見るとこうなる。「普通は、例えばレスラーがファイターになろうと勉強する。ファイターになろうともがいているアスリートはたくさんいるんだ。でもロビーは逆だ。生まれつきのファイターが、後から競技を覚えている」

 ATTのウェイン・ホゲンソンの見解だ。

あまりにも残酷で美しい試合

 2015年7月に開催された「UFC 189」では、後にUFC公式サイトによって2015年のファイト・オブ・ザ・イヤーに選出された“ロビー・ローラー対ローリー・マクドナルド(カナダ)”戦が行われ、ローラーがタイトルを防衛している。ただ、この試合でマクドナルドの攻撃を受けたローラーの唇は見たこともないくらいに大きく裂け、このままでは顔の皮がずるりとはがれ落ちてしまうのではないかと思われるほどだった。

 他方、マクドナルドのアゴ先からは、まるで年老いたネコが垂らす唾液のように、血と粘液が混じり合ったようなものが試合中に絶えずしたたり落ち続けていた。自分の負傷にはひどく無頓着なローラーは、ずかずかと距離を詰めると、すでに1ラウンドに折れていたマクドナルドの鼻を、まるで顔の内部を攪拌(かくはん)するかのように、何度も何度も殴りつけた。見る者が「見ているだけで痛い!」「もうやめてくれ!」と音を上げるほどの、すさまじく残酷で血みどろの戦いだった。精根尽き果てたマクドナルドは試合後の控室で、今が西暦何年なのかを答えられなかったという。

「UFC 201」カウントダウン番組に出演したローラーは、今回のタイロン・ウッドリー(米国)戦について、「もうファイト・オブ・ザ・イヤー級のフルラウンド戦にはうんざりしている。今回はさっさと終わらせるよ」と事もなげに語っている。さらに、「スピード、スタミナ、テクニック。まあ、そういうことも悪くはないんだが、要するにこれって、汚れ仕事なんだよ」と自らの格闘哲学を明かしている。

 ローラーの入場曲、サム&デイブの懐メロ『Hold On, I'm Comin'(邦題:ホールド・オン!)』が流れるたびに、アリーナには昔ながらの血の気の多い地下ファイト会場の香りが漂う。MMAという言葉がまだ存在しない時代、ヴァーリ・トゥード(ポルトガル語で『何でもあり』)と呼ばれていた時代の、セピア色の怪しげな魅力がよみがえる。残酷だからこその強烈な生命力。タイロン・ウッドリーの先には、ジョルジュ・サンピエール(カナダ)の復帰がうわさされているほか、ニック・ディアス(米国)の出場停止期間も間もなく満了する。ウェルター級では当面、喧嘩(けんか)屋たちの魂を取り合うような、血で血を洗うような抗争が繰り広げられることになりそうだ。

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