西武・大石達也の今後の生きる道 6球団競合男に秘められた覚悟

中島大輔

1イニング2被弾…悪夢のロッテ戦

2010年ドラフト会議で6球団競合の末に西武に入団した大石。ケガで苦しみながらも、ことしは14試合連続無失点とドラフト1位としての潜在能力を発揮しつつあるが… 【写真は共同】

 屈辱の1イニング2本塁打を打たれた7月19日の千葉ロッテ戦の前、埼玉西武の大石達也は悲壮な胸の内を明かした。今季初登板から同13日の東北楽天戦まで14試合連続無失点という好投の裏にあったのは、2010年ドラフト会議で6球団に1位指名された男の覚悟だった。

「今までは期待されているから頑張らなければという気持ちが強かったですけど、最近は開き直っています。自分の納得いく球がある程度投げられているので、これで打たれたらしょうがない。それでクビになろうが、もういいやという感じで開き直って投げています」

 鳴り物入りで入団してから昨季まで満足のいく投球を見せられず、度重なる肩のケガに泣かされた。今年10月には28歳を迎える。結果を出すまでに残された期間は、決して長くない。

「正直、去年が最後かなと思っていました。だから今年が始まる前に、この1年が最後と思ってやっています」

 そう語った数時間後、大石はマウンドで悪夢を見た。

 2点リードの6回、先発のポーリーノが1死満塁としたところでバトンを引き継ぐと、井口資仁に2ボールから投じた144キロのストレートが逆球になって満塁本塁打を打たれる。続くナバーロを四球で歩かせた直後、鈴木大地に1ストライクから投じた141キロのストレートが真ん中に入り、ライトスタンドに放り込まれた。

 そのままマウンドを降り、ベンチに座っても茫然自失の表情が消えない。昨季まで、何度も見せていたような姿だ。果たして、14試合連続無失点は偶然だったのだろうか。

早大時代の剛球が取り戻せない日々

 実はこの試合前、大石はこうも話している。

「抑えていることは、本当にたまたまというか。相手の打ち損じもあるので。絶対的に抑えているという感じではないので、そこまで気にしていないです」

 斎藤佑樹(北海道日本ハム)とともに注目を集めた早稲田大学時代、155キロを投げた豪快なボールとは裏腹に、プロ入り後の大石はいつも控え目だった。アマチュア最高と評されたクローザーはプロ1年目のキャンプで先発として準備したものの、チーム事情によりリリーフ要員として開幕1軍メンバーに登録される。その十数日後、右肩の痛みで登録抹消された。

 以降、苦しみの日々は長く、長く続いた。自慢のストレートは130キロ代前半まで落ち込み、投球フォームを模索する。大学時代の投げ方に戻そうとしても、当時は感覚だけで投げていたから、どうすればいいかわからない。

 スカウト陣を魅了した剛球が戻らない中、13年には1軍で8セーブを挙げた。だが、表舞台に立った時間はわずかだった。再び肩を痛め、リハビリの期間は半年以上続いた。14年シーズン序盤には2軍で実戦に舞い戻ったが、復帰3試合目、肩がピリッと嫌な音を発する。再び、マウンドに立てない日々が訪れた。

 2年前、酷暑の所沢で大石は心境をこう明かしている。

「前はボールを投げられないくらいでしたが、日常生活でも痛みが出るのは初めてでした。洋服を着るときとか、何をしても痛かった。ホント、何をしてもつまらなかったです(苦笑)」

 下半身強化をしようと走っても、腕を大きく動かすと肩に激痛が走る。そんな身体では硬球など投げられるはずがなく、投球フォームを見失うのもある意味当然だった。

大きな決断を下した14年の夏

 だが、大石はもがいた。できる範囲でネットスロー、シャドーピッチングを行いながら、しっくりくる投げ方を探し求めた。大学時代から、大石の投球フォームは独特だった。テイクバック時に右腕が背中側に入りすぎるため、リリースへの動作で前に持ってこようとする際、左肩が開きやすくなる弊害があった。西武首脳陣には直すように指摘され続けた。

 確かに、この投げ方が故障で長く苦しむ一因になった。同時にコーチの声に耳を傾けたことで、フォームを見失った側面も否定できない。

 14年夏、長いトンネルから抜け出せない大石は決断した。

「ずっと直せと言われていたんですけど、もういいかなと思って。とりあえず、コンパクトに投げようと。極端に言ったら、野手投げみたいなイメージです」

 この頃、当時の潮崎哲也2軍監督(現ヘッド兼投手コーチ)は大石をもどかしく思っていた。

「ピッチャーの先輩から言わせてもらえば、昔のような感覚というのは無理。体も違うし、筋力も違うし、バランスも違ってくる。だから、そのときに応じた最高のものを自分で探っていかないといけない。それをできるピッチャーが、超一流としてずっと残っていく」

 野手投げの是非はさておき、大石にとっては少なくとも前進だった。何とか変わろうとする姿に、当時の潮崎2軍監督も光明を見た。

「今の大石と昔の大石は違うんだよと分かっているからこそ、『大学時代のフォームには戻せない』という言葉が出ていると思う。それはいいこと。彼が今できる最高のパフォーマンスをどういう状況で探し当ててくれるのか、今は待っている状態だね」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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