きらやか銀行、初出場の都市対抗で大健闘 「胸を借ります」も試合内容は堂々

楊順行

手に汗握るって本当!?

2回戦で西濃運輸に敗れ、肩を落とすきらやか銀行ナイン。ただ、初出場ながら初戦でパナソニックに勝利、西濃運輸にもタイブレークの末の惜敗と大健闘した 【写真は共同】

「名前負けする必要はない。バタバタしたとしたら監督の私くらいで、選手は冷静にプレーしてくれました」

 社会人野球“真夏の祭典”都市対抗で、前々回優勝の西濃運輸(大垣市)に1対2と敗れはしたが互角の戦いを演じ、8強進出に肉薄したきらやか銀行(山形市)。大向誠監督は、前を向いている。そう、50回目出場のパナソニック(門真市)との初戦をタイブレークで勝利し、西濃運輸にもやはりタイブレークで一時はリードしたのだ。前を向いていい。
(※タイブレーク=延長12回に入ると1死満塁から攻撃開始)

「ベンチに戻ったとたん、緊張した。手に汗握るというのは本当ですね」

 初戦でパナソニックに勝利すると、先発して9回途中まで好投したエース・小島康明は大きく息をついた。組み合わせが決まったとき、大向監督もこうもらしている。

「私たち以外はどこも強豪、という印象しかない。東北大会で対戦した日本生命さんは、どこに投げても打たれるし、投手陣も強力でした。パナソニックさんにも、よろしくお願いします、と胸を借ります(笑)」

 小島といい大向監督といい、なんとも初出場らしい純情。だが、試合内容は堂々としていた。

小島の好投、しぶとい打力で大金星

初戦のパナソニック戦で、9回途中1失点と好投した先発・小島。チームに大金星を呼び込んだ 【写真は共同】

 初戦、2対0で迎えた9回、小島は完封目前から追いつかれたが、あとを受けた左腕・西村祐太(JR東日本東北から補強)が好投。1点リードしたタイブレークの13回も、注文通りスライダーで併殺に切って取った。初出場としてだけではなく、山形県勢にとっても大会初勝利だ。大向監督は言う。

「初回の三者凡退で、小島は行けると感じました。左打者が多い相手打線には、得意のチェンジアップが有効と確信があった」

 事実パナソニック打線は、小島の落ちる変化球に手を焼く。9回に降板するまで、8三振と12の内野ゴロの山だ。

 打線も元気だった。タイブレーク前の11回まで、実績のあるパナソニックの3投手から2得点ながら12安打。そのほとんどが逆方向への打球で、「逆方向に打てなければ使わない」(大向監督)という日常が、大舞台でもそのまま発揮された。6月の北海道大会では、今季ドラフトの目玉・東京ガスの山岡泰輔から9安打6得点、5回途中でKO。しぶとい打力は、本物だった。

数々の逆境を乗り越えての大舞台

 創部は、山形相互銀行時代の1952年にさかのぼる。89年に山形しあわせ銀行と名を変え、2007年には殖産銀行と合併して現行名になった。それにともない野球部はクラブチームに。練習は休日だけで、25人ほどの部員も15人に減り、紅白戦すらままならない。当時を知る大向監督は言う。「つらかったけど、逆境だからこそやってやろうと思いました」。

 だが09年、「銀行のシンボルに」という意向でふたたび企業登録となると、徐々に力をつけた。11年、13年と東北地区の代表決定戦に進出し、敗れはしたが都市対抗出場が徐々に視野に入ってくる。一昨年からは初めての関東遠征を敢行し、今季は対戦相手のデータ分析を本格化するなど、チームの強化を進めた今季。「入行以来22年、一度も勝ったことがない」(大向監督)JR東日本東北に初戦で競り勝ち、第1代表決定戦では2年目の小島が日本製紙石巻(石巻市)を散発3安打で完封。「合併から10年目までに、なんとか都市対抗へ」という夢が現実になったわけだ。

 その東京ドームでの、1勝。高校野球なら、甲子園初出場校が伝統校を破ったような金星はなんとも“きらやか”で、銀行の名前は十分アピールできたはずだ。

「西村、ありがとな!」

 最後は力尽きたが、西濃運輸を11回までわずか2安打で零封した補強左腕へのねぎらい。お国なまりが、耳に心地良かった。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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