SNSをうまく活用しているクラブは? コンサル目線で考えるJリーグの真実(5)

宇都宮徹壱
「Jリーグの現状を数字から読み解く」というコンセプトでスタートした当連載。今回もデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎さんにお話を伺う。ここまでは「集客」「チーム人件費総額と勝ち点1あたりの人件費」「売上高と情報開示」といったテーマを取り上げてきた。今回フォーカスするのはSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)である。

 最近では、ツイッターやフェイスブックなどを活用するJクラブは珍しくなくなった。では、それらを戦略的に使いこなしているクラブはどれだけあるのだろう。むしろ限られたリソースの中、兼任のスタッフが日々の更新作業を何とかこなしているのが実情ではないか。そこで里崎さんが提唱するのが「SNSをはじめとしたITの活用状況の可視化」。具体的に何を可視化することで、どのような効果が期待できるのだろうか。さっそくお話を伺うことにしたい。(取材日:2016年5月26日)

クラブのトップから「SNSを活用しよう!」と提唱するのは難しい?

第5回はSNSについて、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎さんにお話を伺う 【宇都宮徹壱】

――今回は、SNSをはじめとしたITの活用状況の可視化ということで、お話をうかがいたいと思います。私自身の話をすると、ツイッターのアカウントを取得したのが2009年でした。スマートフォンを購入したのが10年で、フェイスブックを始めたのが11年。たぶん、それほど早くも遅くもなかったと思うんですが、SNSの広がりというはスマートフォンの普及と密接につながっているというのは間違いないですよね?

 私も同じ認識です。PCのように机に向かって作業しなければならないわけでなく、テレビのように一方向のメディアでもない。ストレスなく手軽に使えて双方向性のデバイスが広まったことで、SNSのユーザーも爆発的に増えていきましたよね。

――そうした中、Jクラブが「SNSをどう生かしていこうか」という話になったとき、やっぱり最初は抵抗感のほうが先立つケースが大きかったと思うんですよ。「炎上したらどうしよう」以前に、まず新しいものに対する抵抗感や不信感というものは、必ずついてまわるのではないかと。

 おっしゃる通りかと思いますね。個人ならまだしも企業というレベルになった場合、守らなければならないブランドだったり、情報管理のリスクといったものが、どうしてもつきまといますから。大きな企業ほど、あるいはコンプライアンスやビジネスリスクのコントロールが機能する企業ほど、そういった方面で出遅れる節はあると思います。むしろ中小のベンチャー企業のほうが、SNSの導入にそれほど抵抗を感じることはなかったという気がしますね。

――Jクラブでも、大企業がバックについているクラブだと、そうした傾向は否めなかったと思います。そうした中、デロイト トーマツさんはSNSに関してどんなアドバイスをされていますか?

 われわれは経営のアドバイザーとして関与することが多いため、細かい具体的なSNSの活用術までコメントする機会が少ないのが現状です。ただ、われわれが今後できることとしては、SNSを活用して得られる価値を「見える化」することかと思っています。そこの部分に「価値がある」ことを理解していただければ、大企業であってもSNSの導入にもっと積極的になれると思うんです。今回のJMC(J-League Management Cup)ではできませんでしたが、次回以降では何らかの形で示していければと思っています。

――今でこそ、Jリーグでは各クラブに対してSNSの講習会を行っているようですが、もともとはJリーグのある若手スタッフがSNSの効力に気付いて、それを各クラブに広めていったという話を聞いたことがあります。

 やはりSNSの費用対効果に関する情報が整えられていないクラブのトップから「SNSを活用しよう!」と提唱するのは難しいと思うんですよ。BtoB(企業間取引)の企業系のクラブだと特にそうですね。逆にプロ野球でいうと、楽天やDeNA、ソフトバンクもそうですけど、ネット系企業が持っている球団だと、SNSの費用対効果を身をもって理解していることに加えて、通信環境の部分でもハードルを楽々と超えられますし、うまくビジネスにつなげているケースは多いと思いますね。

ケタ違いにフェイスブックの登録者数が多いC大阪

セレッソ大阪がフェイスブックの登録者数で他のクラブを圧倒している 【スポーツナビ】

――そんな中、経営戦略的な観点からSNSをうまく使っているクラブを挙げるとしたら、どこになりますでしょうか?

 ひとつの指針となるのが、ツイッターだったらフォロワー数、フェイスブックだったら「いいね!」で登録している人の数でしょうね。その数字を拾ってみて、われわれもびっくりしたんですが、セレッソ大阪がフェイスブックの登録者数で他のクラブを圧倒していたんですね。これは主に、C大阪がスポンサーとともに展開しているアジア戦略が大きく影響しているためだと思われます。

――C大阪は今年の4月28日の時点で78万3525人。2位のガンバ大阪が8万1889人ですから、文字通りのケタ違いですね。実際にC大阪のフェイスブックをご覧になって、里崎さんの感想はいかがでしょうか?

 印象としては、更新頻度や動画の使い方の部分がかなり練られていて、作り手の気持ちが伝わってくる感じですね。それと面白いなと思ったのが、クラブの選手1人1人にフォーカスしたコンテンツが多いことです。チームとしての情報発信も、もちろんやっているんですけども、選手をコンテンツとしてうまく生かしている感じです。1人ずつフォーカスしながら、その選手の知られざるエピソードや日常なんかを順繰りに配信していて、試合がない日はそれでつないでいる。登録している人からすれば「毎日、何かしらアップされている」という感じなんでしょうね。

――今ちょうど見てみたんですが、北野貴之選手が「クラブハウスをきれいにする」ということに非常にこだわりがあるのが、この動画を見ていてよく分かりました(笑)。

 こんな話、誰も知らないわけですよ、普通は(笑)。これも発信しなければ分からないことですよね。毎回「いついつに試合があります、来てくださいね!」っていうだけだと、「知ってる(笑)」で終わってしまいますけれど、いろんな選手のピッチ外での素顔を見ることによって、選手に対する距離感は縮まっていきますし、それがまたスタジアムで観戦しようと思うきっかけになるかもしれないですよね。
――クラブが「ウチの売りものは何か?」と考えたとき、C大阪は「選手」と割り切っているのかもしれませんね。

 多くのクラブの場合ですと、売りものはやっぱり「試合」だと考えていると思うんですよね。スペクタクルな試合をして勝利する、というのが「商品」の筆頭に来るでしょうし、それ自体は正しいと思うんです。ただし「他にも売れるもの」はまだまだあるはずです。ただ、そうした売れるものの棚卸しがきちんとできていないクラブが、実は大半なんだろうなと思っています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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