ユーロ敗退も、評価は上々のドイツ代表 各紙が分析する敗因と大会方式への疑問

期待された終わり方ではなかったが……

フランスとの準決勝に敗れ、大会から姿を消したドイツ(白)。しかし、批判の声はほとんどなかった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ドイツとウェールズの対戦は、サッカーをあらためて世界に訴える”広告”のような試合だった――。おそらくは、フランスにて行われたこのユーロ(欧州選手権)2016におけるベストマッチであり、典型的な3位決定戦となった。ベネディクト・ヘーベデスがハンドで奪ったPKと、ルーカス・ポドルスキの大爆発。ドイツ代表は3位を争う一戦を0−3で折り返したが、最後は5−3と大逆転を達成した。

 もちろん、架空の試合である。ユーロが終わる前日、先週土曜にツイッターでドイツのファンがふざけてこしらえた”ミニ・ファイナル”だった。

 すべてが計画通りに進んでいたならば、こんな創作が生まれる余地はなかった。2014年にワールドカップ(W杯)ブラジル大会で優勝し、世界王者となった”ディー・マンシャフト”ことドイツ代表は、中央ヨーロッパ時間の日曜21時には、欧州の頂点を争う試合に臨むと考えられていたからだ。だが、サッカーとは予測不可能なものだ。ヨアヒム・レーブ率いるチームは、マルセイユで行われた準決勝で、ホスト国フランスに0−2で敗れたのだ。2つのビッグタイトルを手にするというドイツのミッションは、ここで終わりを迎えた。

 だが、ドイツ国内での落胆はそれほど大きなものにはならなかった。もちろん、ベルリンのファンマイル(パブリックビューイングなどが行われるファンゾーン)に集まった15万人は悲しみに暮れた。ドイツ代表のユニホームを着て路上で箱乗りし、ホーンを吹き鳴らす者などいるはずもなかった。

 もちろん、期待されたのはこのような終わり方ではなかった。だが、世界王者は顔を上げたまま大会を後にした。試合で披露したパフォーマンスは継続性のある、優れたものだった。フランスとの対戦でも、上回ったのはドイツだった。「大会のベストチームが姿を消した」。メディアはそう結論づけた。批判の声は、ほとんどなかった。

「今回のドイツは、14年にブラジルで戦ったチームよりも、さまざまな面で上だった」。元ドイツ代表監督ルディ・フェラーは、『ビルト日曜版』でそう話した。現在レバークーゼンでスポーツディレクターを務める同氏は、「他のチームをはるかに上回るドイツをまず見たことがない」とも付け加えていた。

止めることができなかった”ミス”

キミッヒは大会を通していいプレーを見せていたが、フランス戦では弱さを露呈 【写真:aicfoto/アフロ】

 だが、サッカーで大事なのは結果である。国内の声が正しいならば、なぜフランスはドイツより2点も多くゴールを奪ったのか? 答えは簡単だ。レーブの戦術は大会期間中、試合ごとに向上していったが、個人のミスを止めることができなかったのだ。

 準々決勝のイタリア戦で、ジェローム・ボアテングはペナルティーエリア内でハンドの反則を犯した。フランス相手には、バスティアン・シュバインシュタイガーに同じようなシーンがあったし、概して素晴らしい大会を過ごしていた若きジョシュア・キミッヒも、この試合では弱さを露呈していた。本当に強いチームというのは、このレベルのノックアウトステージにおいて、そういったアドバンテージをいかにモノにするかを心得ているものだ。

 だが、ドイツ代表がつまずいた理由は、それだけではなかった。フランスへと赴いたドイツ人記者たちは敗因の分析を試みたあとは、非常に似通った結果にたどり着いた。

「トーマス・ミュラーは精神的に疲弊しており、調子が良くなかった。マリオ・ゲッツェは、またも期待に応えることができなかった。マリオ・ゴメスは調子が良かったが、けがをしてしまった」。『ユーススポーツ・ドイツ版』のダニエル・ラティエンは、そう分析した。ミュンヘンに本拠を置く『tz』紙のスヴェン・ヴェスターシュルツは、「ドイツは非常にボール保持率だったが、大きなチャンスはあまり作り出せなかった」と考えている。

 テレビ局sport1のマティアス・ベッカーは、こう説く。

「ヨアヒム・レーブが築いたチームは、マリオ・ゲッツェやメスト・エジル、ユリアン・ドラクスラー、ミュラーのようなタイプの選手たちによって成り立っていた。負傷したゴメスに代わる本当のストライカーは存在しなかった」


『WAS』は、「ドイツにはアントワーヌ・グリーズマンのような選手が必要だ」と見出しを打った。「今日のドイツ代表に本当に欠けているのは、ゴール前での冷静さと殺し屋の本能を備えた選手たちだ」と、『シュピーゲル』誌のペーター・アーレンスとラファエル・ブシュマンは分析した。

「相手のペナルティーエリアこそが、彼らにとってメーンの活動場所であるべきだ。そう望まれたからでもあるのだが、ドイツに生息する古き良きセンターフォワードは絶滅危惧種のレッドリストに載ってしまった。ドイツにはマリオ・ゴメスがいるだけで、その他のマリオ・ゴメスは存在しない」

 カリム・ベララビ、ケビン・フォラント、マックス・クルーゼといった選手がメンバー入りしなかった時点で、意見は二極化される。だが、それでも良いだろう。この選手たちは、ドイツにとって初めてとなる世界タイトル防衛という2018年のミッションに向け、構想の中に入っているのだ。

「展望は明るいままだ」と『シュトゥットガルター・ツァイトゥング』紙のマルコ・シューマッヒャーは語る。そして、こう続けた。

「中心となる選手の大半はまだ十分に若い。それに、ブンデスリーガのアカデミーは、高い技術を持ったタレントを輩出し続けるという信頼性を保ち続けている」

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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