植田は「世界を感じさせてくれる選手」 秋田豊が語るセンターバックの潮流

田中滋

CBのパフォーマンスは、大会の結果を大きく左右する

リオデジャネイロ五輪の男子サッカーに出場する日本代表への期待度は高い 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 4年に一度開催される“スポーツの祭典”、リオデジャネイロ五輪が近づいてきた。なかでも4位に終わったロンドン大会に続く好成績が期待される男子サッカーへの期待度は高い。日本はコロンビア、ナイジェリア、スウェーデンと同組となり、厳しい戦いが予想されるが、コパ・アメリカではブラジルがグループステージで敗退し、ユーロ(欧州選手権)2016では初出場のアイスランドがグループステージを突破しただけでなく、決勝トーナメントに進出した後もイングランドを撃破し、センセーションを巻き起こした。

 短期決戦では、ひとつ波に乗ると何が起こるか分からないのがサッカーの魅力である。若き日本代表がリオの地でどんな戦いを見せるのか楽しみだ。

 日本の躍進のためには、安定した守備が重要。なかでも体の大きな外国人FWと対峙(たいじ)しなければならないセンターバック(CB)のパフォーマンスは、大会の結果を大きく左右すると思われる。CBのところで劣勢になれば、チーム全体が下がらざるを得なくなり、逆にここで互角以上の戦いができるなら、他の選手は前を向いて仕掛けていける。

 そこで、日本代表のCBとしてワールドカップ(W杯)に2回出場した経験を持つ秋田豊氏に、守備の要というだけでなく、セットプレーの貴重な得点源でもあるCBについて解説をしてもらった。また、リオ五輪代表の植田直通、オーバーエイジ(OA)で選出された塩谷司にも言及。そこからは、コパ・アメリカなどで見られた世界の潮流と同じ傾向が見えてきた。

CBで注目するのは植田直通

秋田豊氏はリオ五輪代表の植田直通(中央)に注目している 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 CBで注目するのは、やはり植田直通。鹿島アントラーズでは、(前監督の)トニーニョ・セレーゾには使われていたけれど、監督が石井正忠さんに代わってからは試合に出られなくなった。それは仕方がない部分もある。CBは経験と声が重要。彼の経験のなさ、サッカー経験自体の少なさもあったから、そこは仕方がなかったと思う。

 でも、五輪アジア最終予選で優勝したことが飛躍につながった。植田が日本に戻ってきた直後、鹿島がキャンプしていた宮崎で話をしたけれど、やっぱり態度や風格が以前とは全然違っていた。前は目標を聞いても「世界一になりたい」という漠然としたことしか話せなかったけれど、いまはもっと明確に、もっと細かくて深いところまで話すことができるようになった。結果を出すことで自信がふくらんで、発言自体も変わってきたんだと思う。

 Jリーグ1stステージ17試合を10失点で終え、鹿島の優勝に大きく貢献したことも素晴らしい。まだ21歳のCBが23歳の昌子源と組んで達成したというのは、極めてまれなケースだと思う。

 プレー面でも進歩が見られた。今シーズンの頭の方では、前に出てボールを取ることができていないことがあったが、(1stステージ)最終節のアビスパ福岡戦では自分で奪ってゴール前まで出ていく場面も見られた。そういうことができるようになってくると、どんどん楽しくなると思う。

 あとは、「ヘディングもインターセプトなんだ」という意識が持てるようになったらもっと良くなるし、ボール奪取率はさらに高くなる。FWに入るロングボールをヘディングで競り勝ち、さらにそれを味方にパスとしてつなぐことができれば、ボール奪取率は飛躍的に高くなると。植田くらいの身体能力があれば、それは十分に可能だと思う。

 最初に彼を見たときに「世界を感じさせてくれる選手」だと思った。高い身体能力、世界で戦える十分なサイズと骨格、さらにスピード。ワンステップで70メートルを蹴れる選手はそうそういない。近い将来、彼は確実に代表のレギュラーになってくる選手だと思う。

植田はCKでの得点はまだまだ物足りない

「CKでの得点はまだまだ物足りない」と秋田氏は語る。1stステージ最終節の福岡戦(写真)でも課題が見えた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 ただひとつ、大きな体があるからこそ、CKでの得点はまだまだ物足りない。植田の一番の問題は、自分の最高打点をまだ正確につかめていないところ。類いまれな体を持っていれば、ふわりとしたボールが来たら全部相手が競ってきても勝てるはずなのに、それができていない。五輪最終予選の(初戦の)北朝鮮戦で見せた消える動きは少しずつできるようになってきたが、まだまだ本当の能力を出し切れていない。それは、キッカーとの相性というか、この場面だったら彼の動きだけしか見ていない、というところまで信頼されていないからだ。

 1stステージ最終節の福岡との試合でもそうだった。(CKを)蹴ったのは柴崎岳だったけれど、たぶん植田に合わせていると思う。でも実際は、ゾーンの後ろに走り込んだ植田はかぶってしまい、その後ろに走り込んだ山本脩斗がゴールを決めていた。相手を混乱させるという意味では、植田がニアに入ったことで、福岡のゾーンの中にいた城後寿が前につられて、自分の最高打点でヘディングできなくなったところはあった。でも本来なら、城後に「来る」と思わせた瞬間に消えることで、城後の後ろでヘディングできたはず。あれは、植田が決めなければいけなかった。

 彼はまだ、どこにボールが欲しいのかを伝えられていないんだと思う。キッカーは、ボールを蹴るときは必ずボールを見るわけだから、その前の時点で「ここに蹴ってくれ」ということを伝えられていないと難しい。そのためには、どこにボールが欲しいのかを伝える予備動作が必要になる。僕が現役のときは、ジーコやオガサ(小笠原満男)と一緒にやったけれど、あのレベルの選手なら、どこに欲しいのかを伝えれば必ずそこに蹴ってくれる。

 CKから点を取るには、相手の前に入ることも大事だし、相手の視野から消えることも大事。消えることができれば相手を混乱させることができる。混乱させることで、ディフェンスの選手が最高打点でヘディングできないようにさせられる。相手がボールを見ている時に消える。相手は「あれ? どこに行った?」と思う。でも、そのときにはもうボールは蹴られているから、ディフェンスは焦る。反応が遅れる。その瞬間にキュッと前に入ってヘディングする。相手は最高打点で競ることができないから競り勝てる。

 でも、それができるかどうかは、自分の最高打点というのをどれだけ突き詰められるかにかかっている。試合の天候、自分の疲労や体調、いろいろな要素によって最高打点は変わってくる。元気なときと疲れたときのジャンプ力は違うし、そこの感覚もちゃんと計算して跳べるかどうかにかかっている。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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