中村憲剛が振り返る1stステージ終盤戦 優勝を逃した自責の念と積み上げた自信と

飯尾篤史

悲願の優勝はまたしてもお預け

ファーストステージ最終節の大宮戦から1日が経った26日、中村があらためて胸の内を明かした 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 J1ファーストステージの最終節、2位につけていた川崎フロンターレはホームで大宮アルディージャに2−0で勝利した。だが、首位に立つ鹿島アントラーズも勝ち点3を上積みしたため、悲願の優勝はまたしてもお預けとなった。

 この日、1得点1アシストの活躍で快勝に貢献したキャプテンの中村憲剛は、ヒーローインタビューでいつもの何倍もの声を張り上げて、ファン、サポーターに呼び掛けた。

「今日、2万6000人、今までで一番多かったと思います。見に来てくれたサポーターの皆さんとともに喜べたことをうれしく思います。ここ等々力では絶対に勝つという気持ちをみんなで持って、セカンドステージも頑張っていきましょう!」

 それは、等々力陸上競技場を埋めた過去最多の観客に対する感謝だけでなく、チームメートを、そして自分自身を奮い立たせる言葉のようだった。

 大宮戦から1日が経った26日、中村があらためて胸の内を明かした。

「昨日のヒーローインタビューは、いつもと意味合いがまったく違った。鹿島の結果を聞いたときから、すでに前を向いていたけれど、選手の代表である自分が言うことで、『前を向いて続けていく』という意思表示をしたかったんです。だから、何も考えていなかったけれど、気持ちが自然にスッと言葉になりましたね」

大一番の直前に再発した持病の痛み

第16節、中村を欠いた川崎は敵地で福岡と2−2で引き分け、首位の座を鹿島に譲ることに 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 もっとも、すでに前を向いていたとはいえ、ショックがないわけではない。試合直後はネガティブな言葉を一切こぼさなかった中村だが、ゲームが終わってしばらくしてから、逃したものの大きさがじわじわと増してきたようだ。

「そりゃあ、やっぱりショックですよ。つかんでいたものを自ら手放したようなものですから。しかも、自分はそこ(優勝が決まる可能性もあった第16節のアビスパ福岡戦)に行けなかったわけで……。福岡戦を欠場したことは簡単には消化できなかった。自責の念と懺悔(ざんげ)の気持ちが強くて、そこに正面から向き合うと大宮戦も戦えなかったから。

 いや、今も消化できていないけれど、2位という結果はもう変わらない。この結果を自分たちがどうとらえるかで、その後が変わってくる。反省する意味でネガティブにとらえることも必要だし、まだ(シーズンは)半分あるわけだから、ネガティブすぎてもいけない。ヒーローインタビューではポジティブな声が必要だと思って話しました」

 中村がアウェーでの福岡戦でチームに帯同すらできなかった理由――それはすでに報じられているように背中と腰を痛めたからだ。

 アクシデントは試合2日前の練習中、なんの前触れもなくやってきた。誰かと接触したわけではない。普通にボールを蹴った瞬間、背中の一箇所に「ピキッ」と痛みを感じた。それが、みるみるうちに背中全体に広がっていく。しばらくすると背中と腰がこわばるように固まり、少し動かすだけで激痛に襲われた。練習が終わって治療を受けてから帰宅したものの、まともに歩けないほど痛みは増した。

 中村にとって、背中と腰の痛みは持病でもある。それに最も苦しめられたのが2013年シーズンだった。シーズン終盤に3度、背中と腰を痛め、試合欠場や途中交代を余儀なくされている。

 その後、しばらくおとなしかった持病が突然、暴れ出したのだ。それも勝てば優勝を大きく手繰り寄せられる大一番の直前に。だから、自分を呪わずにはいられなかった。中村を欠いたチームは敵地で福岡と2−2で引き分け、首位の座を鹿島に譲ることになる。

「なんとか引き分けてくれたから次につながったけれど、自分が情けないし、みんなに申し訳なくて、オフ明け、どんな顔で会えばいいのか、なんて話せばいいのか分からなかった。当然、『何やってんの、この人』って思っている選手もいるだろうし。だからシュンとしていたというか……。とにかく毎日ベストを尽くして戻るしかないなって」

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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