再び海を渡るG大阪の「最強エース」 宇佐美貴史が見せた苦難への覚悟

下薗昌記

名古屋戦で見せた精神面の成長

アウグスブルクへの移籍が決まった宇佐美。27日のラストマッチを勝利で飾ることはできなかった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 6月25日に行なわれたJ1ファーストステージの最終節は、宇佐美貴史が自らのサッカー人生に新たな1ページを刻み込んだ一戦だった。「節目の試合ではいつもゴールを決めてきた」(宇佐美)はずの勝負強さを見せ切れず、チームも土壇場で同点ゴールを献上。3−3のドローと、名古屋グランパス戦は消化不良に終わった。アウグスブルクへの移籍が決まり、ガンバ大阪の一員として挑んだラストマッチを勝利で飾れなかった背番号39だが、試合後に行なわれたお別れセレモニーでは、この3年間に見せてきた精神面の成長を確かに感じさせた。

「J2のガンバに帰ってきて恐怖心ばかりだった自分の心が柔らかくなって、皆さんに喜んでもらえるよう、ガンバがJ2からはい上がっていけるようにということだけを、日々考えてやらせてもらいました。そんな中で、皆さんとともに取れたタイトルは人生において最大の喜びであり、最大の誇りです」

 バイエルン・ミュンヘンへの期限付き移籍が決まった2011年6月の会見で「バロンドールを目指したい」と大言壮語した当時19歳の少年は、ブンデスリーガで人生最初の挫折を味わった。世界的なタレントが集うバイエルンのみならず、ホッフェンハイムでも思うように出番を得ることなく、失意の宇佐美が選んだのは愛する古巣での出直しだった。

 J2で通用せえへんようなら、もうサッカーは辞める……。悲壮感にも似た覚悟を持って2年ぶりにG大阪へと戻って来た宇佐美を迎えたのは、かつて宇佐美自身がそうだったサポーターたちだ。

「またここから這い上がれ貴史!」

 復帰初日の練習で、サポーターが掲げた横断幕のメッセージを目にした背番号39は「あれだけ盛大に送り出してもらって2年で帰ってくるのは申し訳ない気もしますけれど、またプレーで喜んでもらいたい」と語った。

 復帰初戦となった13年7月20日のヴィッセル神戸戦(3−2)では自身にとってプロ生活で初の1試合2得点をたたき出し、チームを勝利に導いた和製エースは試合後のヒーローインタビューで「ガンバで一時代を築きたい」と力強く宣言。その言葉通り、自らの両足で「宇佐美の時代」を切り開いていく。

生え抜きが担った「最強エース」の座

 ヴィッセル神戸戦を皮切りに、宇佐美が得点した試合は負けないという不敗神話がスタートするが、今年2月の富士ゼロックススーパーカップでサンフレッチェ広島に1−3で敗れるまで、背番号39がゴールを揺さぶった試合では40試合、チームは負けの味を知らなかった。

 そんな「神話」以上に価値を持つのがエースとして手にしてきたタイトルの数だ。西野朗元監督が確立したG大阪の攻撃サッカーで、長らくエースの肩書きを背負い続けて来たのは、強烈な個の力を持つブラジル人アタッカーたち。05年のクラブ初戴冠を支えたアラウージョや07年のヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)制覇に貢献したマグノ・アウベス、そしてクラブ史上最大の栄冠であるAFCアジアチャンピオンズリーグで輝いたルーカスら、セレソン(ブラジル代表)クラスのタレントがエースとして、クラブ史に名を刻みこんできたが、宇佐美は彼らを上回る「最強エース」に成長した。

 13年のJ2リーグ制覇に始まり、14年は3冠獲得に貢献。15年も国内の主要3大会で決勝進出への原動力となり、天皇杯で連覇に導いた。

 そのキック精度と同様に、自らが話す内容にも敏感な宇佐美は、過度に自身の実績を称賛しようとしない男だが、名古屋戦を翌日に控えた囲み取材で、自らの位置づけにはキッパリと胸を張る。

「チームの心臓という意味では長らくヤット(遠藤保仁)さんが担って来ましたけれど、エースと言うところはブラジル人選手が今まで背負ってきましたからね。代わる代わる、いろいろなブラジル人選手が一番の点取り屋。点を取らないとアカンのはお前やぞ、というところをブラジル人が背負ってきましたけど、そこをガンバの生え抜きである自分が背負えたのはすごく大きな意味があると思っています」

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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