ル・マンで感じるおもてなしの心 地元の人々に刻まれるレースへの誇り
公開車検でファンへ神対応
元F1ドライバーのルーカス・ディ・グラッシ(左)とアンドレ・ロッテラーがサインに出ると、ファンがドライバーの名前を呼んで、Tシャツ、旗、プログラムへとサインを求める。 【田口浩次】
よくプロ野球の春季キャンプ時に、キャンプ地まで訪れたファンに向けて選手がサインをする姿をテレビで見るが、公開車検時のル・マン24時間レース出場ドライバーは、全員がそうした神対応をしていると思ってもらえるとわかりやすい。さらに言えば、プロ野球選手やサッカー選手から試合会場でサインをもらうチャンスが滅多にないのと同じで、サーキットに入ってしまうと、チーム内のスケジュールに縛られ、ドライバーも結果的に冷たい態度になることが多い。熱心なファンが公開車検を狙ってくるのは、そうした違いを知っているからかもしれない。
公開車検2日目は、午前9時半にスタートし、夕方の午後5時10分までが予定されているが、こうしたファンサービスでズルズルとスケジュールは押し、初日同様、終了は2時間以上遅れてしまう。ドライバーやチームも、こうした遅れはル・マン24時間レースの名物と認識しているようで、その結果、さらにファンサービスの時間が増えている印象を受けた。
ファンの楽しみ方も多種多様
特大の脚立を持ち込んで車検を見学するファン。このサイズを持ち込むとなると、間違いなく地元のファンなのでしょう。 【田口浩次】
同じフランスで開催中のサッカー欧州選手権で、ロシア代表とイングランド代表のファンが暴動を起こし、試合開催地のマルセイユでは催涙ガスや放水銃が使われたというニュースが流れた。もちろん、ファンの数も熱狂度もまるで違うのだが、同じフランス内だけに、ル・マン24時間レースで感じる牧歌的な雰囲気は本当に心地よい。さらに言うと、昨年も強く感じたことだが、フランスでは外国人観光客に冷たい態度を取る人がいる印象があるが、ここル・マン市ではそれがまるでない。それはきっと、ル・マン24時間レース、そしてファンも含め牧歌的だからこそ、結果として地元の人々がル・マン24時間レースを誇りに感じ、海外からやってくる観光客に対しても、おもてなしの心があるのだろう。
事実、宿泊したホテルで夕食を取ったとき、テーブルサービスを担当してくれた女性は、「レース自体は見たことはないですが、自分が子供の頃から公開車検や金曜のドライバーズパレードは楽しみにしていました。ル・マン市やその周辺で育った人は、みんなそうだと思いますよ」とル・マン24時間レースへの印象を語ってくれた。今年で84回目を迎えるル・マンは、地元の人々に子供の頃からDNAに刻まれ愛されている。こうしたところも、ドライバーの中嶋一貴や関係者の多くが、ル・マン24時間レースに夏祭りのイメージを重ねる理由なのかもしれない。
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