“勝負強さ”はポジティブ思考が生み出す ゲーム感覚でできるメンタル強化法

高島三幸
 今夏にリオデジャネイロ五輪を控え、盛り上がりを見せる日本のスポーツ界。4年後には地元・東京で五輪が開催され、数多くの日本選手のメダル獲得が期待される。

 メダル獲得に必要な要素の1つに、勝負強さがある。勝負強い選手にはポジティブ思考が多い。そうした前向きな考え方は、「子供の頃からのメンタルトレーニングで養われる」と話すのが、メンタルトレーニング指導の第一人者・東海大の高妻容一教授だ。子供にどんなトレーニングをさせればポジティブ思考になれるのか。具体的な方法を教えてもらった。

精神力を決めるのは「考え方が強いか弱いか」

世界選手権で2連覇した瀬戸大也(写真)ら、勝負強い選手にはポジティブ思考が多い。前向きな考え方はどう育めばいいのか。高妻教授に聞いた 【写真:ロイター/アフロ】

――大会本番になると不安になって緊張し、実力が発揮できない選手がいます。やはり性格がネガティブだから不安になってしまうのでしょうか?

 不安に陥るということは、本番に挑むための準備が足りなかったり、ケガで調子がよくなかったり、ライバルを気にしすぎて失敗したらどうしようと考えたりするなど、さまざまな原因が考えられます。ネガティブ思考の子供は物事を悪い方向に考えてしまうので、不安に陥って緊張してしまい、実力がなかなか発揮できません。

「ネガティブ思考」を生まれつきの性格だと思っている人は多くいます。しかし、スポーツ心理学では、性格とスポーツは一切関係がないとしています。精神力は、性格ではなく考え方が強いか弱いかで決まる。つまり「メンタルが強い=くじけない、諦めない考え方」なのです。

 ですから、子供の「ポジティブな考え方」を育ててあげれば、どんな子でもポジティブ思考になります。そのためのトレーニングは幼ければ幼いほど効果が表れやすくなります。考え方をプラスの方向に切り替えるようなトレーニングを続ければ、やる気が出てパフォーマンスが上がるという研究結果も出ています。

――親の思考がポジティブかどうかも、子供に影響するのでしょうか?

 親がネガティブだと、子供もネガティブな考え方になります。家庭や学校で過ごす環境は、子供の思考を育むのに非常に重要です。親が愚痴や文句、人の悪口を言っていると、子供も同じようにネガティブな発言をしたり、後ろ向きな考え方になってしまう。自覚がなく文句や愚痴を発している親は多く、注意が必要です。

 実際、競泳世界選手権の金メダリストである瀬戸大也選手はポジティブ思考で知られていますが、彼のお父さんは息子以上に超ポジティブ思考で、瀬戸選手がネガティブな発言をした時だけ、唯一叱るのだと聞きました。

――親やコーチが生み出す環境が大事なんですね。

「コーチが変われば選手は変わる。親が変われば子供は変わる」。子供を何とかしようと思う前に、チームのコーチや親が「まず、わが身を直せ!」というところから始めてみることが大事です。知らず知らずのうちにネガティブな発言をしていないか、文句や陰口を言っていないか、振り返ってみましょう。コーチや親が変われば、大人の真似をする子供の思考や習慣、癖も変わります。親とコーチが連携して子供と接することが、ポジティブ思考を育む条件とも言えます。

 海外では、ポジティブな部分に目を向けることを研究する「ポジティブサイコロジー」という心理学の学問が確立されています。人間は良くないことに目を向けがちですが、これは危険を回避するには必要な能力。しかし、ネガティブ思考が続けば、本番で不安に襲われるなどして実力が発揮しづらくなります。ネガティブな人が勝負強いわけがありません。

ゲーム感覚で気持ちを切り替える

メンタルトレーニングを習慣化させるために、チーム全体で取り組むのも有効な一手になる 【写真:岡沢克郎/アフロ】

――ポジティブ思考の選手に見られる特徴は?

 ポジティブ思考だと、苦境に立たされても諦めませんし、苦しい場面でのチャレンジを楽しめる。一流選手は、端から見て苦しい練習をしているのに、「きついけど自分を追い込む事が楽しい。自分の限界にチャレンジする事が楽しい」という思考を持つことができます。

 監督の前では一生懸命やるけれど、いなくなれば「きついなあー。あ、監督が見ていないから手を抜こう」と、サボるような裏表があるタイプは三流止まり。ネガティブ思考の人は、後者の三流選手の考え方になりがちなのです。

――具体的にはどのようなトレーニングをすればいいのでしょうか?

 まずは、子供自身がネガティブな発言をしていると気づく必要があります。そのため、私たちは「プラス思考ビーム」というゲームを作りました。

――え、ゲームですか?

 トレーニングは習慣化させる必要があります。すぐに飽きてしまう子供には遊び感覚で習慣化させると効果的です。

 例えば、リトルリーグなどの野球チームでこのゲームを取り入れるといいでしょう。チームメイトの1人がネガティブな発言をしたら、その子に向かって「プラス思考ビーーーム」と言いながら腕を十字にして、ウルトラマンが光線を発射するような格好をします。ビームを受けた子供は、「あ〜」と言いながら一回転して「プラース!」と言う。

 つまり、ネガティブな発言をした時にある一定の行動を取ることで、気持ちをプラスに切り替える役割を果たすのです。これを続ければ、自分がいかにネガティブな発言をしているのか自覚できるため、次第にネガティブな発言は出てこなくなってきます。これをチームでルール化して徹底するだけでも、チーム全体の雰囲気が明るくなります。

 もちろん、家庭でも試してみてください。朝、起きてきた子供が「おはよう」のあいさつもなしに、お母さんに向かって不機嫌そうに「ごはん」と言えば、お母さんは子供に「プラス思考ビーム」を送る(笑)。もちろん、子供がネガティブなお父さんにビームを送ってもいい。にこっと笑って「お父さん、お母さん、おはよう! 朝ご飯、ありがとう」となれればベスト。ゲームとして続けてそれが習慣化されれば、おのずと思考もポジティブに転換されます。

――ポジティブに考えようと頭で思ってもダメなんですね。

 実践できなければ意味はありません。そのために、習慣化する方法を考える。ゲーム化すれば、子供はおもしろがってやります。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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