北朝鮮が外国人監督を招へいした理由 Jリーグで活躍する在日選手の立場は?

キム・ミョンウ

25年ぶりとなった外国人監督の就任

北朝鮮代表監督となったヨルン・アンデルセン。同国史上2人目の外国人監督となった 【Getty Images】

 そのニュースに一瞬、耳を疑った。

「朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)代表監督に元ノルウェー代表のヨルン・アンデルセンが就任」。5月に日本のメディアで報じられたこの事実が本当ならば、実に25年ぶり、2人目の外国人監督就任となる。

 J2リーグのV・ファーレン長崎に所属し、北朝鮮代表としてロシアワールドカップ(W杯)アジア予選にも出場した李栄直(リ・ヨンジ)は「最初、このニュースを聞いたときはガセじゃないのかなと思いましたよ(笑)。それくらいビックリしました。これから期待する部分が多い」と驚きを持って受け止めていた。

 そもそも、アンデルセンとはどのような人物なのか。1963年生まれ、ノルウェー出身の53歳。82年にノルウェーでプロデビューし、FWとして活躍。85年にはノルウェーのヴォレレンガ・フォトバルでプレーし、リーグ得点王に輝いた。

 ブンデスリーガのフランクフルトでプレーした89−90シーズンには、外国人選手として初めて得点王にもなった。85年から90年まではノルウェー代表として27試合に出場している。スイスで現役を退いたあとは、指導者の道へ進み、スイス、ドイツ、ギリシャなどを渡り歩いて、昨年12月までオーストリア2部のSVオーストラリア・ザルツブルクの監督を務めていた。

 実は北朝鮮代表は過去、1度だけ外国人監督を招へいしたことがある。ハンガリー出身のパル・チェルナイ氏だ。同氏は91年から代表監督に就任し、92年のAFCアジアカップ、93年の米国W杯アジア予選で指揮を執ったが、本大会進出とはならなかった。6年前の09年、南アフリカW杯に44年ぶりの出場を果たした北朝鮮代表チームを取材するため、平壌で同国サッカー協会関係者に話を聞いたとき、こう言っていたのを今でもよく記憶している。

「国内の実情や選手の思考、感情を理解できないと、外国の指導者を呼ぶことは難しい」。つまり、協会の覚悟やあらゆる条件が満たされない限り、外国人監督が代表チームを率いるのは非常に難しいというわけだ。

アンデルセンを招へいした経緯とは?

今年1月に行われたリオ五輪アジア最終予選では、準々決勝でカタールに敗れ本大会出場を逃した 【Getty Images】

 にも関わらず、なぜ今回アンデルセン氏に白羽の矢がたったのか。その経緯について知るため、これまで数多くの在日コリアンJリーガーの代理人として彼らを代表チームに送り込んだ南泰和(ナム・テファ)氏を訪ねた。

「18年のロシアW杯アジア最終予選に進めなかったことが、結果として大きな理由であるのは間違いありません。次のW杯に向けてチームを作らなければいけないですからね」

 確かに、北朝鮮代表は南アフリカW杯に出場後、国際大会でことごとく屈辱を味わっている。14年ブラジルW杯予選では最終予選に進むことができず、昨年1月のアジアカップは3戦3敗でグループリーグ敗退。今年1月のリオデジャネイロ五輪予選では準々決勝でカタールに敗れ、出場権を逃した。

「外国人監督を招いて代表チームを強化する計画については、常に議論されてきましたし、協会の課題でもあったのです。もっとも、結果としてアジアカップ、五輪、W杯予選とすべての可能性が断たれたので、外国人監督を呼ぶタイミングがあったというのが正しいでしょう」

 また、南氏が続ける次の言葉からは、スポーツに力を入れていこうというお国柄と方針が見えてくる。

「実は国内の女子バレーボールチームが、すでに外国人監督を起用して結果を残しているんです。朝鮮体育省のトップは『旧式ではダメだ。新しい風を吹かせなければ世界では勝てない』と認識している人がたくさんいます。サッカー協会関係者は『バレーボールが実現できて、サッカーで外国人監督を呼べないわけがない』と。そもそも、サッカーは国民の人気スポーツなので、国からの強化費も多く割り当てられています。協会内部が本気で代表チームの強化と改革を望んでいることがひしひしと伝わってきました」

 南氏の話によれば、アンデルセンは5月初旬に平壌に入って、サッカー協会と正式に契約を結び、市内のホテルに滞在。代表チームの合宿所で日々、選手たちの指導に明け暮れているという。

時間をかけ、国内サッカーの底上げを目指す

 ただ、一つ疑問に思った。結果を残せなければ、再び国内の監督を招へいするのではないのか。そのことについて南氏に聞いてみると、こう答えが返ってきた。

「今回ばかりは長期の目で見ています。とりあえず1年契約と発表されていますが、これはその都度、更新されていくでしょう。そもそも協会内部の誰もが、1年で代表チームが作れるとは思っていません。近年は国も関係者も徹底して国内サッカーの底上げを目指しています。

 国内リーグはいわゆるステート・アマなので、いずれはプロリーグ化して、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)への出場を目指そうという議論もあります。時間はかかりますが、そうしないことには代表チームの強化にはつながりませんからね」

 また、南氏は代表監督が決まる前のアンデルセンに会って話をしたとのことだが、このときの印象は「すごく落ち着いた人」だったそうだ。

「アンデルセンは協会が提示した年俸や条件など、すべてをクリアして代表監督になってくれた人物。選手としても監督としても実績があるので、関係者やスタッフも信頼しているようです。言葉の問題は専任の通訳が常に帯同しているので、問題ありません。

 これまで国内で実践してきた練習方法や内容、戦術も当然変化していくと思います。チーム内にアンデルセンが目指すサッカーを浸透させるには時間がかかりますが、聞くところによると、すでに従来のトレーニング方法を見直していると聞いています」

 監督就任からそろそろ1カ月が経とうとしているが、協会や選手が外国人指導者の指導をどのように受け止めているのかは気になるところでもある。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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