熊本地震が熊本の高校球児に及ぼした影響 延期の春季九州大会、調整必要な夏の大会

松倉雄太

九州大会は5月10日に延期して開幕

春季九州大会の開幕式で、熊本地震の犠牲者へ黙とうをささげる選手たち 【写真は共同】

 4月14日と16日、熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生した。23日から開催される予定だった高校野球の春季九州大会は、さまざまな意見があることを承知の上で、大会を延期して5月10日に開幕する新しい日程を決めた。

 5月10日、雨で試合が中止になる中、長崎県営球場のスタンドで行われた開会式。海星高(長崎)の小畑翔大主将が選手宣誓をした。

「4月14日、熊本県で大地震が起きました。この地震で、熊本と大分の多くの方々が被災し、家も奪われ、今も不安と悲しみの中、生活しておられます。そんな中、この九州大会は、熊本に早く復興してほしい、九州に元気をという思いをこめ、『がんばろう!!九州!!』を合言葉に開催されます。今、私たちにできること。それはこの大会を精いっぱいやりきることです。大会が開催されること、今ここで野球ができることに感謝し、最後まであきらめないひたむきなプレーで元気と希望を与えられるような大会にすることを誓います」

 いつもと違う雰囲気の九州大会が始まった。

秀岳館は帰省中に各自自主練習

秀岳館は県外からの選手が多く、大会までは一時帰省して各自自主練習に励んだ。大会ではで初戦で大分(大分)に4対5と敗れた 【写真は共同】

 熊本からは選抜ベスト4の秀岳館高と春の熊本大会を制した九州学院高が出場。両校とも地震の後は選手が帰省して練習試合ができず、今大会がぶっつけ本番だった。

 秀岳館高の鍛治舎巧監督は地震後の状況をこう話した。

「本震のあと選手がしばらく寮に残っていましたが、19日に学校のある八代でも震度5強の揺れがあった。それで20日にはほとんどの選手は実家に帰りました。その後、最初に選手が戻ってきたのは28日の夜で13人。長崎入りする前日の5月8日に部員98人中44人が戻ってきたという感じです」

 選手たちは帰省中、各自で自主練習をして、その様子をSNSで監督や選手間で共有していた。ただ、練習相手がいないとメニューも限られてくる。それだけに、主将の九鬼隆平は、「九州大会で試合ができることをワクワクしていました」と本音を話した。

 県外出身選手が多い秀岳館高だが、地震の被害が最も大きかった益城町に実家がある選手もいる。「地震で家が大きな被害を受けたので、しばらく寮に残ったらどうだと言いました。しばらく寮にいましたが、親や兄弟と一緒にいたいと言ってきましたので、1週間ほどして帰りました。被害があった家には戻れなかったので、避難所で過ごしていたようです」と鍛治舎監督は話す。九州大会に出場したメンバー以外は、ボランティアをしていることも明かした。

九州学院、支援に甘えず次に進む

 九州学院高の坂井宏安監督は、「本当は出られない状況だったが、大会を延期していただいて出ることができた。(選手たちも)試合が楽しかったと思います」と語った。熊本市内にある同校では地震後は中々練習ができない状況だったが、同時に延期までしてもらった九州大会に万全の状態になるように準備したいという思いもあった。

 26日に寮に入っている3年生と、九州大会の出場メンバーが集まり、28日から少しずつ練習を始めた。5月に入ると大型連休を利用して、近隣のチームと合同練習を行った。相手校もまだ実戦をしていないため、試合はできなかったが、できる限りの備えをした。

 さらに長い付き合いのある北大津高(滋賀)の宮崎裕也監督や報徳学園高(兵庫)の永田裕治監督らも地震後すぐに駆けつけた。「車に一杯積みこんできてくれました」と目を潤ませた坂井監督。それでも、「いろいろな方々に支援をしていただいて感謝しています。選手もみんなそれをレポートに書いていました。でもそれに甘えるのはもうやめようと言って来た大会でもある。感謝を返していくには、われわれがハツラツと挑戦していくことだと思います。選手は、次に進んでいかなくてはいけないとレポートに書くようになってきました」と、この九州大会を境にして、ある程度の区切りもつけたいと思いも話した。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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