北島康介が抱えていたかすかな不安 問われる精神力、200平で最後の勝負へ

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まさかの結末、静まり返った会場

記録を見て呆然とした表情を浮かべる北島。100メートル平泳ぎでの代表内定を逃した 【奥井隆史】

 その瞬間、会場はそれまでの大歓声がうそのように静まり返った。まさかの結末に誰もが声を発せなかった。その静寂はまるで北島康介(日本コカ・コーラ)の気持ちを代弁しているように感じられた。

 リオデジャネイロ五輪の選考会を兼ねた競泳の日本選手権が5日、東京辰巳国際水泳場で行われ、男子100メートル平泳ぎでは北島が59秒93のタイムで2位となったが、派遣標準記録(59秒63)を切れず、この種目での代表内定を逃した。

「言葉にならないです。積極性に欠けたというか、らしくない泳ぎをしてしまった。悔しさが残る展開になってしまったかなと思います」

 レース後、北島は呆然としながら、なんとか言葉を振り絞った。前半50メートルのタイムは28秒17。派遣標準記録を切った準決勝の27秒95はおろか、予選の28秒10よりも遅い。そしてその遅れを後半で取り戻すことはできなかった。積極的に攻めに出た準決勝までとは一変し、決勝は守りに入ってしまったという。

「自分自身の問題だと思います。他を気にせず自分らしくいこうとしていたんですけど、それができずに消極的になってしまった。緊張感を味方につけられず力を発揮できなかったのは自分のせいだと思います。準決勝を59秒前半で行けていたら思い切り狙えたと思うんですけど、100分の1秒だけ派遣標準記録を切っての決勝進出となると余計なことを考えますよね。今までで一番高いレベルで泳がなければいけないというプレッシャーや不安が、少し自分の頭の中にあったかもしれないです」

 そう語る北島の姿は悲壮感に満ちていた。

最後に落とし穴が待っていた

準決勝で59秒62をマークするなど、好調な様子を見せていた北島のオーラに、ライバルたちも思うような泳ぎができていないようだった 【奥井隆史】

 北島にとって、今回のリオ五輪挑戦は自身ができる「最後の勝負」だった。すでに33歳。年齢的なピークは過ぎており、ここ2年は国際大会の舞台からも遠ざかった。挑戦者として臨む今大会は、本命視されていた過去とは明らかに違う立場。それでも「五輪には自分を熱くさせてくれる何かがある」と厳しい練習を自分に課し、かつてないほど良い状態に仕上げてきた。

 初めて五輪に出場したのが2000年のシドニー大会。そこからもう16年になる。その間、04年と08年に100メートルと200メートル平泳ぎで2冠を達成した。メドレーリレーも含めて金銀銅すべてのメダルを獲得している。そんな北島が選考会に臨む心境をこう語っていた。

「五輪に行くことが夢だったころみたいに、夢中になって勝負したい」

 ただ、がむしゃらに最高の舞台を追い求めていたあの頃。キャリアの終焉(しゅうえん)を迎えつつある今だからこそ、原点に立ち返り純粋に勝負を楽しみたかった。そうした気持ちにさせてくれるのはやはり五輪しかなかった。

 準決勝まではすべてがうまくまわっていた。早々に派遣標準記録を切り(準決勝で59秒62)、自身が持つ日本記録(58秒90)の更新さえ視野にとらえていたのだ。選考会特有の雰囲気にも「僕にはやはりこうした緊張感が合っている」と言ってのけた。小関也朱篤や立石諒(ともにミキハウス)ら出場権を争うライバルたちは、北島が放つ異様なオーラに完全にのまれ、思うような泳ぎができていないようだった。しかし、最後に落とし穴が待っていた。

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