日本の1位通過をどう評価するか? 指揮官の手腕と最終予選への課題

宇都宮徹壱

2次予選での日本の戦いをどう見るか?

ハリルホジッチ監督は2次予選の後半4試合でさまざまなテストを行った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ここであらためて、2次予選について振り返ってみたい。今予選からフォーマットが変更され、これまでなかなか対戦機会のなかった国々と手合わせできるのは、取材者としてはひそかな楽しみであった。だが昨年6月16日、ホームで迎えたシンガポールとの初戦は0−0のドロー発進。これがハリルホジッチ監督のトラウマとなり、前半戦の「メンバー固定」と「本田依存」の要因となってしまった。昨年8月のEAFF東アジアカップ(中国・武漢)では、国内組の新戦力が多数試されたが、この中から今予選で定着した選手は現れなかった(柏木は招集されたものの、けがのため辞退)。

 その後、日本はホームのカンボジア戦に3−0で勝利すると、アウェー4連戦にいずれも無失点で勝利(対アフガニスタン戦6−0、対シリア戦3−0、対シンガポール戦3−0、対カンボジア戦2−0)。ようやくチーム状態が落ち着いたのが、シリアとの直接対決を制した4戦目以降である。11月の東南アジア遠征では、柏木と金崎夢生がこのチームで十分に通用することが証明され、遠藤、藤春廣輝、南野拓実といったニューカマーにも出場機会が与えられた。そして先のホームでのアフガニスタン戦では、初めて本田をベンチに温存して5−0で大勝。「4−4−2(あるいは4−3−1−2)」という新システムもテストできた。

 2次予選8試合で、ピッチに立った選手は28人。そのうち8人は、後半戦4試合から招集・起用された選手だ。新戦力にチャンスを与えたり、新システムを導入したり、指揮官は意識的にチームに変化をもたらそうとしていた。それらは言うまでもなく、チームが最終予選を見据えたフェーズに入ったことを意味する。確かに、吉田や長谷部や本田や岡崎のように、絶対不可欠な選手がいないわけではない。それでも、8試合すべてにスタメン・フル出場したのはCBの吉田のみ。長谷部や本田や岡崎をベンチに置いたまま、あえて新戦力にアピールの場を与えた試合もあった。

 できるだけメンバーをいじらず、手堅く勝ち点を積み上げることに力点が置かれていた前半戦。そして、最終予選を意識しながら、さまざまなオプションを試した後半戦。この2次予選の日本代表は、まったく異なるチームマネジメントがなされ、結果として2次予選を余裕をもってフィニッシュすることができた。もちろん日本と他の4チームとの実力差は明らかだったし、首位争いをしていたシリアとは厳密な意味でのアウェー戦もなかった(中立地のオマーンで開催された)。そういったことを差し引いても、ここまでの日本の戦いぶりとハリルホジッチ監督のチームマネジメントについては、一定以上の評価は与えて良いと私は考える。

決して楽な戦いではない最終予選

最終予選を見据え、本田は「強い相手には、こうはいかない」とコメントした 【写真:ロイター/アフロ】

 むしろ気になるのが、9月から始まる最終予選である。ここで2次予選突破を果たした12チームを確認しておこう。サウジアラビア(A1位)、UAE(A2位)、オーストラリア(B1位)、カタール(C1位)、中国(C2位)、イラン(D1位)、日本(E1位)、シリア(E2位)、タイ(F1位)、イラク(F2位)、韓国(G1位)、ウズベキスタン(H1位)。これをFIFA(国際サッカー連盟)ランキングに当てはめてみると、ほぼ順当な顔ぶれであることが分かる。アジアのベスト12のうち、最終予選にたどり着けなかったのは、ヨルダンとアウェーのフィリピン戦にまさかの逆転負けを喫した(2−3)北朝鮮のみであった。

 この12チームのうち、日本が現体制となって対戦しているのは、韓国、中国、ウズベキスタン、イラク、イラン、シリアの6チームで、いずれも負けていない。とはいえ、東アジアカップで対戦した韓国と中国はメンバーが大きく異なるし(もちろん日本も同様)、ホームでの親善試合で勝利したイラクやウズベキスタンも相手の本気度を考えるとあまり参考にならない。最終予選での対戦相手との力関係は、ゼロベースで考える必要があるだろう。

 最終予選の組み合わせは4月12日に決まる。最新のランキングに準じてシードが決まるのは通例どおりだが、日本はランクを落として第2ポットとなる模様だ。その場合、またしても韓国との対決は回避される見通しだが、イランかオーストラリアのどちらかと同組になることは確実。また、ブラジル大会予選で敗れたウズベキスタンや、先のアジアカップで手痛いPK戦負けを喫したUAEも、決して楽な相手ではない。

 昨年のアジアカップにベスト8で敗退したことで、多くの日本のジャーナリストが早々に帰国してしまったが、ベスト4以降の戦いは(3位決定戦も含めて)極めてインテンシティの高い、ヒリヒリする熱戦が続いた。そうしたゲームを経験するのとしないのとでは、きっと最終予選への心構えも違ってくるだろう──現地で抱いた思いは、今も全く変わることなく私の胸の奥底でくすぶり続けている。2次予選1位通過と、岡崎の代表100キャップの祝賀ムードの中、本田は「強い相手には、こうはいかない」と冷静なコメントを残していた。本田以外の選手たちも、そうした現状をきちんと共有されていることを、今はひたすら願うばかりである。

 2次予選の1位突破という結果をくさすつもりは毛頭ない。むしろこの1年におけるハリルホジッチ監督の仕事ぶりと選手の奮闘については、私は大いに評価している。しかしながら、9月からの最終予選に臨むには、まだまだクリアすべき課題があることが、このシリア戦で明らかになったのも事実。指揮官が言うところの「このチームのさらなる成長」と、最終予選特有の緊張感あふれる戦いをあれこれ想像しながら、まずは2週間後の最終予選ドローに注目したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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