心のコントロールで7年目の飛躍へ――菊池雄星、初の開幕投手で見せた“脱力”

中島大輔

7年目で初の開幕投手という大役を任された菊池。状況によって力を抜くピッチングで、6回を2失点に抑えた 【写真は共同】

 9回裏に飛び出したメヒアのサヨナラタイムリーでオリックスとの開幕戦に劇的勝利を収めた試合後、チームメイトと喜びを分かち合った埼玉西武の先発・菊池雄星は、早い足取りでクラブハウスの奥へ消えていった。

 プロ入り7年目で初めての開幕投手を任された3月25日の一戦は、6回110球を投げて被安打7、2失点。相手エースの金子千尋より先にマウンドを降りたものの、味方が2度のビハインドを追いつき、菊池に黒星はつかなかった。

潮崎コーチ「めちゃくちゃ合格点」

「今日はめちゃくちゃ良かったよ。この緊張感がある中で、6回2失点。めちゃくちゃ合格点」
 チームのサヨナラ勝ちに頬を緩めた潮崎哲也ヘッドコーチ兼投手コーチは、菊池のピッチングを絶賛している。とりわけ強調したのが、0対0で迎えた4回の場面だった。

 立ち上がりからストレートが150キロ台の球速を記録していた菊池だが、この回のスピード表示は130キロ台後半まで落ちる場面が見られた。先頭打者の小谷野栄一には外角を狙った138キロのストレートが真ん中高めに入り、レフト前安打で出塁を許している。

 続く糸井嘉男はファーストゴロで併殺に打ち取ったと思われた直後、山川穂高が弾いて一、ニ塁。4番のモレルには初球、内角低めに146キロのストレートを投げて詰まらせたものの、ライト前へのポテンヒットとなり無死満塁とされる。迎えたボグセビックには1ボール1ストライクからの138キロストレートが真ん中低めに甘く入り、レフト前タイムリーで2点を先制された。

失点のあとの投球に高評価

 だが潮崎コーチが評価したのは、続く中島宏之以降のピッチングだった。ここからのシーンにこそ、今季の菊池を占う要素が凝縮されている。あと一本打たれれば完全に流れが相手に傾く状況で、菊池は中島の内角に147キロストレートを投げ込み浅いセンターフライでサードランナーの生還を許さなかった。T−岡田は高めのストレートで詰まらせてサードフライ、伊藤光は外角低めに142キロのストレートで空振り三振に仕留めている。不運が続いた満塁のピンチだったが、ボグセビックへの失投のみで切り抜けたのだ。

 ピッチャーは精密機械ではないので、投げミスが起きるのは仕方がない。大事なのは、その後をどうやって抑えるかだ。失点をいかに少なくするか次第で、シーズンで勝ち星を積み重ねていけるか、否かが大きく変わってくる。

 この日の菊池は先制された後のピンチを切り抜けたからこそ、潮崎コーチは最大級の評価を送ったのだ。
「失投はあり得ること。その後にどう抑えたかを考えると、素晴らしいと思う。初めての開幕でもっとグチャグチャになるかなという感じも予想していたけど、素晴らしい立ち上がりをしてくれたしね。一つ大きくなったと思う」

3回まで被安打1と冷静な立ち上がり

 昨季の菊池は福岡ソフトバンク、北海道日本ハムとの上位対決で5戦5敗とすべて敗れている。さらにCS出場を千葉ロッテと争っていた9月28日の直接対決で先発すると、5回途中3失点で負け投手になり期待を裏切った。大事な試合でことごとく勝てない菊池に対し、捕手の炭谷銀仁朗は何とか奮起させようと昨季夏場にこう語っていたことがある。

「雄星にも話したんですけど、ソフトバンクと日本ハムには勝っていません。いいピッチングはいつも、(東北)楽天とオリックス戦に偏っています。それにランナーを出すと、自信がなさげになる。そこをどうするかだと思います」

 言わずもがな、自身初めての開幕戦はプレッシャーのかかるマウンドだ。田邊徳雄監督の抜てきを意気に感じるのか、重圧に押しつぶされてしまうのか。そんな注目にさらされたオリックス戦で菊池はプレーボール直後から冷静な投球を続け、3回までわずか1安打と上々の立ち上がりを見せたのだった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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