アフガニスタン戦でのリスク&トライ 申し分ない「5−0」というスコアの背景

宇都宮徹壱

5得点中4得点に絡んだ清武

オウンゴールとなった3点目を除くすべてのゴールに絡んだ清武 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 先制ゴールまで時間がかかった前半から一転、後半は4ゴールが飛び出す派手な展開となった。レスターでの充実ぶりを随所に見せた岡崎、チーム最多の9本のシュートを放った金崎、そして旺盛な運動量が途切れなかった原口やワンボランチで奮闘した長谷部など、それぞれが持ち味を活かした結果が、この大量得点につながったと言えよう。だが、この日のMVPを選ぶならば、オウンゴールとなった3点目(後半19分)を除くすべてのゴールに絡んだ清武に、多くの支持が集まったはずだ。

 後半13分、長谷部が出した縦パスを受けた金崎がワンタッチで絶妙に浮かせたところに、裏に抜け出た清武がダイレクトでシュート。ミートこそしなかったが、GKオバイス・アジジの意表をつくコースに転がって追加点となった。後半29分には、清武の左からのコーナーキックに、吉田がニアからヘディングで合わせて4点目。そして33分には、途中出場のハーフナー・マイク(後半27分に岡崎と交代)に左サイドからふわりとしたボールを送り、ハーフナーが頭で落としたところを金崎が泥臭く押し込んでダメ押しの5点目を演出した。

 この試合での清武について、長友は「キヨがすごく良かった。彼がいたからリズムが作れたし、(FWの)2人が生きたのもキヨの技術やパスの精度が利いていたから」と手放しで賞賛。当の清武は、トップ下で起用されたことについて「難しいポジションでしたけれど、ツートップのオカちゃん(岡崎)と(金崎)夢生くんのどちらかが下がってきたら僕が空いていたので、後半はそれが良かったんじゃないかと思います」。後半19分に柏木に代えて香川が投入されると、清武は左サイドにスライドしたが、ポジションを変えてもきっちりゴールをお膳立てしているところに、プレーの充実ぶりがうかがえる。

 この日は、新システムが機能しただけでなく、新戦力のテストという意味でも申し分なかった。ハーフナーに続いて後半34分には、小林悠が起用され(金崎と交代)、シュートこそなかったもののはつらつとしたプレーを見せていた。終わってみれば、2次予選で5試合連続ゴールを挙げている本田も、現体制になって常に起用されていた宇佐美貴史もピッチに立つことなく、5−0というスコアで大勝。準備期間が短い中、新システムに順応し、しかも特定の選手に頼らず結果を出したことは(相手との実力差を差し引いても)、十分に評価してよいだろう。また、アジア2次予選という「失敗が許されない」場において、このようなトライをすることは少なからずのリスクをはらんでいたわけで、それを決断したハリルホジッチ監督の勇気にも敬意を表したい。

アフガニスタンの挑戦とクライフ氏の死

「今日は議論の余地がなく、日本は非常に良い試合をした。ハリルホジッチ監督は、素晴らしいチームを作り、素晴らしい試合運びをし、われわれはまったくチャンスを与えられなかった。今日の0−5という結果を受け入れるしかない」

 アフガニスタン代表のセグルト監督は、日本との圧倒的な実力差を認めつつも、よほど悔しかったのか「0−5で負けたことは非常に残念」とか「次に対戦するときは0−5でたたくようなことはしないでくれ」などと、ことあるごとに「0−5」という屈辱的なスコアを連呼していた。とはいえ、彼らは決して望みを絶たれたわけではない。なぜなら「来週(29日)のシンガポール戦こそが、われわれにとって非常に重要な試合。これに勝てば、アフガニスタンサッカー史上初めて、アジアカップの3次予選に進むことができる」からだ。そしてクロアチア人指揮官は、こう続ける。

「アフガニスタンは今も極めて厳しい状況にある。(なぜなら)まともにサッカーができるような状況ではないからだ。それだけに、サッカーは人々に希望をもたらす。現状では1年のうち11カ月は練習ができず、できるのはわずかに1カ月。おそらく日本はその逆だろう。そういう中で、スポーツは平和をもたらすという重要な役割を担っているし、それが私のミッションだと思っている」

 日本もアフガニスタンも、5日後の2次予選最終節こそが正念場だ。日本は1位通過を懸けて、この日カンボジアに6−0で大勝したシリアとの直接対決へ。そしてアフガニスタンはアジアカップ出場に望みをつなぐべく、シンガポールとの「オール・オア・ナッシング」(セグルト監督)の決戦へ。目指すところは異なるが、彼らの健闘を祈りたい。

 最後に、この試合とは直接関係のない、いささか感傷めいた話題について言及させていただく。試合後の会見でPCを開いたとき、「空飛ぶオランダ人」ことヨハン・クライフ氏の訃報に接してがくぜんとした。肺がんの治療を受けていることは知っていたが、まさかこのタイミングで(しかも68歳で)天に召されるとは……。この人の偉業については、今さら多くを語る必要はないだろう。ハリルホジッチ監督も「これは悲しいニュースだ。彼は素晴らしいプレーヤーであり、クリエーターであった。現代フットボールにさまざまなものをもたらしてくれた」と、その死を心から悼んでいた。

 オランダにルーツを持つハーフナーが3年ぶりに代表戦のピッチに立ち、クライフ氏の代名詞である背番号14を付けた小林が会場を沸かせたことに、不思議な符合を感じたオールドファンは私だけであろうか。ともあれ、心よりご冥福を祈ります。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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