日本のスポーツビジネスが遅れている理由 コンサル目線で考えるJリーグの真実(1)

宇都宮徹壱

プロの目から見たJリーグの現状

――Jリーグでは村井(満)チェアマンをはじめいろんな方にお会いしたでしょうし、いろいろな部署もご覧になられたと思います。プロのコンサルからご覧になったJリーグとは、どんな組織に映ったのでしょうか?

里崎 あくまで個人的な感想で言いますと、最初は何となく閉塞感が漂っているイメージがあったんです(苦笑)。でもいろいろな方と話してみると、「このままではいけない」「何かを変えなければならない」という問題意識を持った方が意外と多いことに気が付きました。開幕から20年以上が経って、経営的にジリ貧になりつつある一方、村井さんのようなビジネス畑の方がチェアマンになられて、いろいろな意味で節目を迎えているというのは確かにあると思います。

──そんな中、なかなかJリーグが変われない原因は、どこにあると思いますか?

里崎 やはり20年以上続けてきたしきたりや風潮といったものですとか、50以上あるJクラブとの利害調整といったところにかなりの労力を割かれてしまって、なかなかやりたいことができないところではないでしょうか。だから皆さん、決してやる気がないわけではないんですけれど、一気に何かを変えられるだけの余裕がないのではないか、というのが率直な感想です。

スポーツビジネスグループとしての目に見える最初の成果物『J.LEAGUE PUB REPORT 2015』を手にする里崎さん 【宇都宮徹壱】

――ところでデロイトトーマツグループがJリーグと関わるようになって、目に見える最初の成果物となったのが『PUB REPORT』でした。2015年シーズンをデータで総括する印刷物で、Jリーグアウォーズが開催された昨年12月21日に配布されました。この『PUB REPORT』が生まれる経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

福島 当初はJリーグ側から「Jリーグのありのままの姿を知ってもらうためのツールを増やしたい」というお話をいただいたことが発端です。一方で、実は当グループでは、UKの方で『フットボール・ファイナンス』とか『フットボール・マネーリーグ』といった、フットボールの冊子を毎年2つ出しております。そういったものをJリーグさんと一緒にできないかと先方とディスカッションしていく中で、最終的にこのようなリポートが出来上がりました。

里崎 この『PUB REPORT』については、私以外のスポーツビジネスグループのメンバーが中心となって、Jリーグをサポートして出来上がったものなんですが、本来であれば、もうちょっと時間をかけて中身をブラッシュアップしてから出すという選択肢もあったんです。でもチェアマンの意向は「タイムリーに出さないと意味がない」というものでした。2ステージ制にして、それが成功だったのか失敗だったのかという議論がされている中で、チェアマンは説明責任と情報開示の意識を高く持たれていました。ですから「成功しました!」というプロパガンダではなく、ありのままの情報を「こうです!」と出すことが何よりも優先されました。かなりの突貫工事でしたが、Jリーグのスタッフの方々とも一緒になって、何とか完成にこぎつけましたね。おかげさまで、チェアマンからは好意的な評価をいただくことができました。

マーケットの拡大を確信する理由とは?

2020年の東京五輪をはじめ、大きなスポーツイベントが控えている今、スポーツビジネスの領域には、間違いなく追い風が吹いていると里崎さんは語る 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】

――その後、Jリーグから発展して、各クラブへのビジネスソリューションの提案もされているということですが、現在のところ何クラブくらいでしょうか?

里崎 まだ数クラブですね。それなりに意識のあるクラブさんは増えてきているのですが、「助けてほしいことは山ほどあるんだけれど、お金は1円も出せないからよろしく」というパターンが実際にあるんですね(苦笑)。ここはビジネスジャッジの部分もあるんですが、タダでサービスを提供するということはサステナブル(持続可能)という意味で、決して良いこととは思っていません。

──確かにそうですね。

里崎 先ほど、日本のスポーツビジネスが遅れてしまった理由について「スポーツと体育が非常に融合した形になっている」と言いましたが、もう1つの理由が「タダでやりたい人が多いこと」が挙げられると思います。スポーツに魅力を感じて「タダでもいいからやります!」という人がけっこう多いんです。雇う側も、薄給でも喜んで働いてくれる人を優先的に採用してしまう。そうなると、いつまで経ってもビジネス的な感覚が育たないですし、薄給で働いていた人もやがて生活が立ちゆかなくなってしまって辞めてしまう。これではサステナブルにはならないですよね。タダで集客したお客さんは、リピーターにならないというのがわれわれの考え。ですので、ビジネスのプロフェッショナルファームとして、そこも啓蒙活動をしていく必要性を感じています。

──サービスをする側も、受ける側も、そこは意識していく必要がありますね。それを踏まえた上で、最後の質問です。今後、日本サッカー界にマーケットが拡大していくポテンシャルは、まだまだあるとお考えでしょうか? というのも、われわれ書き手にとっても、マーケットの拡大というのは非常に死活問題でして(苦笑)。

里崎 それがあると思ったからこそ、この活動を始めました。もちろん根拠はあります。まずPDCAサイクル(※)とか中長期計画のような、ビジネスの世界での「基本のキ」の部分を実践していない、取り組む余地がたくさんあるクラブがまだまだ多いんですよね。そこで、うまく会社が回っていくサポートをさせていただくことで、市場は間違いなく拡大する方向に動くだろうと考えています。

 それともう1つは、2020年の東京五輪ですよね。その前後にラグビーのワールドカップ(19年)やワールドマスターズゲーム(21年)もある。スポーツビジネスの領域には、間違いなく追い風が吹いています。ですので、サッカーに限らず日本のスポーツビジネスのマーケットが拡大する可能性は十分にあると、われわれは考えます。

──ぜひそうあってほしいし、当連載もその一助になることを最終目的としたいところです。ということで次回は、Jリーグの集客についてコンサル目線でいろいろとお話いただきたいと思います。

<第2回に続く>

※PDCAサイクル:計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)というサイクルを繰り返すことによって、業務を改善していくマネジメントの手法。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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