坂口智隆、連覇を狙うヤクルトの救世主へ 課題だった「1番・センター」を埋める男

菊田康彦

オリックスで実績のある坂口が今季からヤクルトへ加入。連覇を狙うチームにとって課題だった「1番・センター」が期待される 【写真は共同】

 53打数22安打、打率4割1分5厘──。

 東京ヤクルトの新戦力、坂口智隆(31歳)が、オープン戦で見事に結果を残した。なるべく多くの選手に出場機会を与えるというチームの方針もあり、規定打席には到達しなかったものの、10試合以上出場した選手の中で打率はチームトップ。もっとも、これまでの坂口の実績を考えれば、そんなに不思議なことではない。

オリックスでは好守巧打の外野手

 昨年まで在籍したオリックスでは、好守巧打の外野手として鳴らした。2008年にはセンターのレギュラーとなり、この年から4年連続でゴールデングラブ賞を獲得。打っては主に1番打者として、09年から2年連続打率3割をマークし、11年には175安打で最多安打のタイトルに輝いた。

 ところが、野球人生は何が起こるかわからない。故障禍に見舞われたのは、12年。試合中にダイビングキャッチを試みた際に右肩を強打し、右肩肩鎖関節脱臼およびじん帯断裂の重傷を負うと、翌13年はシーズン途中で腰を痛めて離脱。チームが福岡ソフトバンクと熾烈な優勝争いを演じた14年は、3年ぶりに出場100試合を超えたが、自身は打率2割3分5厘と精彩を欠いた。

昨季は好調の春もオフには自由契約

 この年、FA権を取得したもののこれを行使せず、オリックスに残留。翌15年はオープン戦で3割を超える打率を残し、シーズンに入っても3、4月で打率3割と、復活に向けて好スタートを切った。

「開幕してからも良かったんで、レギュラー取ってから10年近くやった中でも、春先の手ごたえとしては一番ありましたね」
 昨シーズンの序盤をそう振り返る坂口だが、5月に入ってパタッと当たりが止まると、ほどなくして登録抹消。その後、2度と1軍の舞台でプレーすることはなかった。そして9月、球団から野球協約上の制限を超える大幅な減俸を提示され、自由契約という道を選んだ。

新天地では金髪から黒髪へ

 坂口のオリックス退団が発表された翌日、かつてのチームメイトであり同い年の大引啓次は、ヤクルトの一員として初めての優勝の美酒を味わっていた。ナインとお揃いの優勝記念Tシャツの下に着ていたのは、古巣・オリックスのユニフォーム。そこには若くして他界したオリックス時代の後輩に対する思いと共に、“盟友”へのメッセージも込められていた。

「坂口はああいう形で退団したんですけど、また新天地で輝いてくれることをすごい願っていますし、こういう経験をしてもらいたいなっていうのがあるんで…『優勝っていいもんだぞ』ってね」(大引)

 それから1カ月あまり、坂口は新天地にヤクルトを選んだ。昨年11月30日に行われた入団会見には、オリックス時代にトレードマークだった金髪を黒髪に戻し、ヒゲをそり落として現れ、意気込みを口にした。
「こうやって拾っていただいて感謝の気持ちしかないですし、絶対にやってやろうという気持ちがまた強くなった感じですね」

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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