川崎宗則、メジャー昇格チャンスあり! 打撃、守備、性格でカブス内野陣の一角へ

丹羽政善

7人目の内野手、状況は厳しいが…

川崎はカブスのマドン監督(右)が好むタイプ 【Getty Images】

 ただもちろんこれで開幕メジャーが決まったわけではない。前出のゴードン記者はいう。
 
「内野手登録は6人だろう。その6人とは、アンソニー・リゾ、アディソン・ラッセル、ハビエル・バエス、ベン・ゾブリスト、クリス・ブライアント、トミー・ラステラだ」

 すでに6人は実績などから固定されている。川崎の順位を聞くと、「内野手の7番目」。キャンプ序盤は、アリスメンディ・アルカンタラと7番目の地位を争っていたが、アルカンタラは三振が多いなど、確実性の面でマドン監督のお気に入りのタイプとはいえず、オープン戦で3割3分3厘の打率を残していたものの、先週、マイナーに落とされた。
 
 続いて台頭したのが、昨年広島にいたヘスス・グスマン。オープン戦では出遅れたが、12日に初出場すると、現時点で打率4割をマークし、川崎との差をつめつつある。もちろん、仮に川崎がグスマンを上回ったとしても、さきほど触れたようにメジャーには残れないわけだが、そうとも言えなくなってきた。7番という順位は、案外、大きな意味を持つ。なぜなら、ラステラが7日の試合で右足のふくらはぎを痛め、今なお戦列を離れているからだ。
 
 現在は守備練習を始め、マイナーの試合で打席には立っているが、まだベースランニングができない状況。開幕に間に合うかどうか微妙だ。再発でもすれば、内野手の7番目が開幕ロースターに入る。川崎には十分チャンスがある。

 サード、ショート、セカンドと複数のポジションを守れる川崎は、マドン監督の使いやすいタイプだ。しかも三振が少なく、コンタクトができる。マドン監督は出塁率も重視するが、川崎のオープン戦での出塁率は4割6分9厘と高く、この数字はオープン戦に10試合以上出場している選手の中ではチームトップ。ますますマドン監督好みの選手になっている。

指揮官もユーモアあふれるキャラクター

 話は変わるが、川崎はユーモアセンスにおいてもマドン監督好みだ。

 昨年8月、カブスがロサンゼルスから移動するとき、マドン監督は「パジャマ・デー」を設け、選手らは持参したパジャマでチャーター機に乗った。こういう企画はこの時だけではなく、移動のときにテーマを設け仮装をさせるのは、レイズ監督時代からのアイディアだ。マドン監督はフットボールのヘルメットを被って、試合後の会見に出たこともある。オウムを肩に乗せて取材に応じたこともある。監督室にペンギンを招いたこともあった。いざ試合が始まればシリアスだが、同時に「楽しもう」というのがマドン監督のポリシー。その意味でも川崎の存在は、マドン野球にピッタリである。

 ノーチャンスとも一部で指摘されたが、今や開幕ロースター入りは50−50。ラステラの回復次第では、十分にあり得る。
 
 メジャーでは通用しない、日本へ帰ってこい。日本に帰ればレギュラーが約束され、金銭的にも恵まれ、言葉で苦労しなくてすむ、という声も耳にしたが、川崎がそんなぬるま湯的な状況に価値観を感じているなら、そもそも米国には来ていない。マイナーに落とされても歯を食いしばり、泥水を啜ってメジャーを目指す。34歳の川崎が、新人と同じように泥だらけ。その価値観を否定することは誰にもできない。

 ちなみに彼がここまで残っている背景には、彼の意外な一面――いや、本来の顔がある。

シリアスな一面をのぞかせることも

 最後にこんなエピソードを。

 12年の夏、スイングの連続写真を撮って選手に解説してもらう企画があり、川崎にも写真を見せた。すると川崎は、「これはヤンキー・スタジアムですね。2打席目のセカンドゴロの時ですね」と指摘した。写真を見る限り、デーゲームということは分かるが、球場は分からない。しかも“2打席目のセカンドゴロ”とは。

「聞いてみてください。多分、そうだと思います」

 果たして編集者に確認すると、「その通りです」。

 よくこれだけで分かるものだと川崎に伝えると、「あんまり打席に立ってないから」と笑ったが、川崎の頭の中には、全打席の風景がインプットされていた。

 写真を見ながら川崎は解説もしてくれた。しかし、それを雑誌に書いていいかと確認すると、こう言われた。

「ダメです。僕はまだスイングを語れるレベルにないから」

 あの時のコメントは、まだ筆者のノートの中にある。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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