最強の「チーム」を作った豊田合成 組織力でつかんだ悲願のVリーグ初優勝

田中夕子

創部以来、悲願の初優勝

Vリーグ初優勝を果たした豊田合成。コートの中心で輪を作って勝利を喜んだ 【坂本清】

 ミッションインポッシブル、かつては「不可能」と思われたミッションをかなえる瞬間がやってきた。

 ビクトリーポイントで巡ってきた、イゴール・オムルチェンのサーブ。

 返すのが精いっぱいという苦しい状況で、ライトから放たれたパナソニックの清水邦弘のスパイクがサイドラインを割るのを、コートに立つ選手たちだけでなく、ベンチのスタッフ、アップゾーンのリザーブの選手たちが全員で確認。ピョンピョンと跳び上がりながら、コートの中心に輪を作る。

 誰よりも喜びを露わにし、真っ先にコートへ駆け込んだアンディッシュ・クリスティアンソン監督が言った。

「新しいアイデア、考えを持ったチームが優勝したこと、ここに誕生したことをみなさんも喜んでください」

 創部以来、悲願の初優勝。3シーズン前に就任した指揮官は、喜びで顔を紅潮させた。

 偶然でもまぐれでもない。今季の豊田合成の強さは本物だ。

3シーズンをかけて築き上げたシステム

クリスティアンソン監督のもと、3シーズンをかけて勝つためのシステムを構築した 【坂本清】

 開幕を間近に控えた昨夏、選手たちの言葉や表情は過信ではなく、自信で溢れていた。

「今年は、いけると思うんです」

 クリスティアンソン監督が就任直後から求めた「コミュニケーションは英語で、通訳を介さず話すように」という言葉の壁から始まり、掲げるコンセプトを理解すること。はじめは「2時間の練習が終わると体も頭も疲労困憊(こんぱい)だった」と言うように、選手たちは与えられることをこなすのに精いっぱいで、なぜこの練習が必要か、理由を考える余裕などなかった。

 時が経つにつれ、相手や状況、細かなシチュエーションに基づき、「ここはこうプレーする」「これはダメ」と繰り返し説かれるうちに、少しずつ監督が目指すバレーの形が見え始めた。しかし、それを実行しきるだけの技術や体力が備わっていたわけではない。加えて、2メートルを超えるような恵まれた体躯(たいく)を備えた選手が複数そろっているどころか、ミドルの近裕崇は192センチ、ウイングスパイカーの高松卓矢は186センチと、平均身長ならばV・プレミアリーグの中でもおそらく1、2の低さでもある。

 今ある力を最大限に発揮して勝つためには、それぞれが何をすべきか。クリスティアンソン監督が授けたのはまさにその方法だった。スパイカーは相手のブロックやレシーブに対してどう攻撃すべきか。ブロッカーは自分の勘や感覚ではなく、相手の何を見てどう判断して跳べばいいのか。攻撃陣を生かすためのトスはどう上げるのか。レギュラーもリザーブも、すべての選手に対して「ダメなことはダメだ」と顔を真っ赤にして叱咤(しった)する監督から何度も繰り返したたき込まれるうち、自ずと選手の意識もプレーも変わっていった。高松が言う。

「『ブロックアウトをしろ』とか『ミスするな』と言われるだけならうまくはならない。ブロックアウトをするにはこの練習が必要だ、高くジャンプするためにはこのトレーニングをして、こう考えてプレーしろ、それが全部つながっているんです。だから僕らは監督が出してくる選択肢の中から、『この状況はこれ』と必要なシチュエーションをチョイスできるフィジカル、メンタル、テクニックを3年かけて作り上げてきた。今は100%、監督のコンセプトをチーム全員が理解してプレーしている自信があります」

 3シーズンをかけて築き上げてきたチームとしてのシステムが、最も充実した形で発揮されたのが今シーズンだった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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