松山、石川、岩田がゴルフで伝える思い 一口で語れない、それぞれの「3.11」

 現在、米PGAツアーを主戦場にしている、岩田寛、松山英樹、そして石川遼の3人には、今からさかのぼること5年前の「3.11」には、一口では語れない複雑な思い出がある。

「僕のプレーを見た人が、何かを思ってくれれば」

仙台へ帰路の途中で震災に遭った岩田。自身のプレーで「何かを思ってくれれば」と話す 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 仙台で生まれ育った岩田寛は、地元の東北福祉大を卒業し、2011年はプロ9年目を迎えていた。その間、何度も優勝に手が届きそうな試合があったものの、未勝利だった岩田は、沖縄でキャンプを張り、2011年シーズンに備えていた。そして帰途に就いた3月11日、那覇空港から仙台空港へのフライト中にあの大震災が起きた。飛行機は、そのまま那覇空港に引き返した。目的地の仙台空港は、津波に飲み込まれていたのだ。

 その翌日、岩田は自らのブログでファンにこう呼びかけていた。

「沖縄から仙台に行く飛行機に乗ってるときに地震が起きて、沖縄に引き返してきました。僕は無事で家族も無事でしたけど連絡がなかなかとれなくて、今は停電らしく水もでないらしいです。友人とか連絡がとれない人がいっぱいいます。まだまだ余震などが続いてるらしいので、準備できることはしておきましょう。千葉、首都圏の人達は節電にご協力ください。マンションなどは電気が止まると水が出なくなるらしいので水をためておきましょう」(原文ママ)

 普段は無口な岩田も、居ても立っても居られない気持ちでこの文章をつづったのだろう。

 仙台空港の駐車場に停めていた愛車は津波に飲み込まれてしまったが、徐々に情報が入るにつれて悲劇はもっと深刻なものになってきた。
 大学ゴルフ部の同級生の奥さんが亡くなり、そのお子さんが行方不明になっていた。

 岩田が仙台の実家に戻ったのは、4月に入ってからだった。「帰れば、僕ひとり分の水が必要になる」と考えたからだ。そして、家に帰った直後に震度6の余震に見舞われた。

 もの凄く怖かった。

 しかし、この何倍もの恐怖を味わった人々に岩田は思いを馳せた。
「夜、寝る前とか、思い出すたびに泣きそうになります」と岩田はぽつりと言った。そして、「僕のプレーを見た人が、何かを思ってくれればいいなと思います」との思いで試合を戦い続けている。

全英オープンからの強行出場に込められた思い

昨シーズン、全英オープンからぶっつけ本番でダンロップ・スリクソン福島オープンに出場した松山。強行出場の中には東北への思いが感じられた 【写真は共同】

 2010年からマスターズ委員会は、アジアアマチュア選手権を開催して、その勝者に翌年のマスターズ出場資格を与えるようになった。その初代チャンピオンが、当時、東北福祉大1年生だった松山英樹だ。松山が、東北の悲報に接したのは、同大が毎年恒例としているオーストラリア合宿でのことだった。

 3月20日の夜に帰国した松山は、そのまま車で仙台の寮へ向かった。「寮の部屋はぐちゃぐちゃだったし、道路もデコボコ」(松山)だったが、一夜が明けて目にしたのは、想像を絶する惨状だった。たびたび余震も襲う。

 松山は思った。「こんなときにゴルフをしていてもいいのだろうか」と。そして「マスターズ出場辞退」が頭の中をよぎった。

 その気持ちが報じられると、大学に励ましの電話、メール、FAXが殺到した。マスターズへ行くな、という言葉はひとつもない。すべてが激励のメッセージだった。

「ここまで応援されているとは思わなかったし、頑張って行こうと思いました」と、3月24日の渡米時に松山はコメントしている。
 ただ、マスターズ開幕前に行われる公式記者会見に出席した松山は、「このような困難の状況で、マスターズに出場することが許されるのか、この場にいても心の中が揺れているのが正直なところです」とも語っていた。

 2013年にプロ入りした松山は、あっさりと賞金王の座を射止めると、翌年から米ツアーを主戦場に選び、日本での試合出場は年間2試合だけになってしまった。昨年、松山は、そのうちの1試合に7月末に行われたダンロップ・スリクソン福島オープンを選んだ。前週に行われていた全英オープンから福島入りして、ほとんどぶっつけ本番という強行スケジュールの試合になった。

 この大会の前身は、ローカルトーナメントとして19年間の歴史がある福島オープンで、20回を迎えた2014年にツアーに昇格し、現在の名称になった。震災による壊滅的な被害から立ち直ろうとする地元は、いまだに風評被害にも悩まされている。「ゴルフの力で福島を元気に」という願いも込めてのツアー昇格でもあった。

「いつかこの大会でプレーしたいと思っていた」という松山の脳裏には、初めてのマスターズ出場へと背中を押してくれた東北の人々への恩返しの気持ちがあったのではないだろうか。

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著者プロフィール

長らく週刊ゴルフダイジェストでトーナメント担当として世界4メジャーを始め国内外の男子ツアーを取材。現在はフリーのゴルフジャーナリストとして、主に週刊誌、日刊誌、季刊誌になどにコラムを執筆している。

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