四つどもえの熱戦、見せた五輪への意地 “リオ後”を示したマラソン選考レース

中尾義理

記録では世界水準に及ばないが……

 日本陸連のリオ五輪男子マラソン派遣設定記録は、2時間6分30秒。日本歴代2位に相当するこの記録を、選考レースでは誰もクリアできなかった。記録の面では、日本の男子マラソンは確かに世界(特にアフリカ勢)水準から置き去りにされている。

 東京でもそれが露呈したが、冬場のマラソンとしては気温が高かったびわ湖では、北島らが15年世界選手権3位のムニョ・ソロモン・ムタイ(ウガンダ)の終盤の失速を見逃さなかった。また、日本人上位4人とも残り2.195キロは優勝したルーカス・ロティッチ(ケニア)より速かった。粘りと精神力。記録重視の高速レースではなく、メダルを争う夏場のレースでの日本勢の戦い方の一端が示された。

36歳の石川もリオ五輪代表の有力候補に 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 選考レースのタイムと順位から、昨年12月の福岡国際マラソン日本人1位で2時間8分56秒だった佐々木悟(旭化成)と、びわ湖の北島は代表選出が濃厚だろう。残る1枠は東京マラソン日本人1位の高宮祐樹(ヤクルト)とびわ湖日本人2位の石川の比較になる。記録では高宮2時間10分57秒に対し、石川は2時間9分25秒。予断は禁物だが、気象条件とレース内容、1分30秒以上のタイム差などから、石川にアドバンテージがあると見るのが自然だろう。

 とはいえ五輪の選考レースは一筋縄ではいかない。東京では日本陸連が記録も内容も「物足りない」と評価し、酒井勝充・強化副委員長が選考要項に照らして「(五輪出場3枠を)保証しない」と発言したことがクローズアップされた。びわ湖には福岡で日本人4位に終わった川内優輝(埼玉県庁)が一般参加しており、2時間11分53秒で日本人5位に。派遣設定記録を切らなくても、佐々木を上回るタイムで日本人1位になるようだと、選考の混乱は避けられないところだった。

ベテランに若き挑戦者が続いている

 リオ五輪日本代表をめぐる男子マラソンの戦いは終わった。選考対象の選手は果報を待ち、あるいは気持ちを切り替え、来年の世界選手権、20年の東京五輪へと踏み出す選手もいるだろう。

東京マラソンでは一色(左)や服部ら、若手が躍動した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 選考レースでの記録上位3人はいずれも30代で、ベテランの奮闘が光った。しかし若手が台頭しなかったわけではない。東京では23歳の村山謙太(旭化成)が途中まで2時間5分台ペースを経験し、22歳の服部勇馬(東洋大)が30キロで飛び出して、最後は19歳の下田裕太が日本人2位、21歳の一色恭志(ともに青山学院大)が日本人3位となった。びわ湖では25歳、初マラソンの丸山が日本人トップ争いを動かした。

 駅伝を中心に力を付けてきた彼らには、距離に対する自信もある。「箱根を走る学生は結構走りこんでいますよ」とは昨季まで早稲田大を率いた渡辺康幸・現住友電工監督。誰かがやると言うなら、自分もやる。誰かがやれたなら、自分もやれる。そう考えることで、相乗的にマラソンへの抵抗感を小さくしているとも言える。

 リオ五輪の選考レースでは、若き挑戦者たちが30代選手の後ろに続いていることが確認できた。彼らの経験が大きく育っていくことを見守りたい。日本の男子マラソンは、もっとやれる。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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