1部残留へ、清武に寄せられる大きな期待 ハノーファーで厳しい評価の山口と酒井

現地記者が指摘する山口、酒井の課題

冬に加入した山口に対し、現地記者たちの評価は厳しい 【Bongarts/Getty Images】

 日本代表ながら、山口はドイツではまったく無名の選手にすぎなかった。ハノーファーに来てからは、右サイドのMFとしての起用が続く。本来のポジションは中盤の中央だが、そうしたことも知られていないかのようだった。日本代表としての経験もブンデスリーガで生かせていないと、ミハエル・リヒターは『キッカー』で記している。他の記者も、その意見に同意する。

「厳しいね」。ハノーファーを見続けてきたティーテンベルクはそう語る。「彼は今のところ、まだブンデスリーガに慣れていない。山口はまず、ドイツのトップリーグのスピードに慣れる必要がある」。パスなど良いものも持っているが、彼にとってブンデスリーガはまだ早すぎるようだ。

 テレビ局『スカイ・スポーツ』のユレク・ローンベルクも同意見だ。「彼には少しがっかりした。動きがまるで、機械のようだったからね」。指揮官が同じ意見だったかは分からないが、前半のうちに代えられたこともあった。

「冬期に加入した選手ならば、それに向けてのプランを持っていることが必要になる。半年とまでは言わないものの、3、4カ月は適応には必要だったのかもしれないね。ハノーファーには、助っ人としてやって来たはずなのに。スポーツディレクターのマーティン・バーダーは、焦って動いてしまったのかな」

 酒井宏樹も、大きな助けになれていないのが実情だ。このDFは「ファイターであり、ランナー。でも、戦術的な動きはできていない」とティーテンベルク記者は指摘する。他の見方もすることはできるだろう。ただ、看過できないシンプルなポイントがあるという。「クロスがひどい。他にどんなプレーがあろうとも、そこだけはいつもひどいんだ」と、ローンベルクは言い切る。「不安定さも感じられる。とても神経質な選手なのかもしれないね」。

 フィリップも「もともと安定感がある選手ではなかったけれども、さらに悪くなっている」と懸念を示す。

残留へ、清武の活躍は欠かせない

 そうなれば、期待が懸かるのは清武弘嗣だ。足の負傷から戻り、重要かつ必要とされるプレーの波動をチームにもたらそうとしている。昨季のように、清武はチームを降格から救うことができるだろうか?

「ハノーファーで良いサッカーをプレーできるのは、清武だけだ」とティーテンベルクは言い切る。シャーフ監督が求めるのは、ボールを前へと進めるサッカーだ。まさにシャーフが「前に運べ」と指示するプレーを体現できるのが、清武である。

 しっかりボールを止め、前に蹴る。「他の選手にボールを供給するのが、僕の役目です」と、復帰した清武は語っている。まだ100パーセントの状態には戻っていないだろうが、シュトゥットガルト戦前にシャーフ監督は「清武は大丈夫だ。もちろんまだ完了してはいないが、われわれは彼と一緒に復帰に取り組んできたからね」と背番号10に信頼を置いた。チームのベストのパフォーマンスを引き出す引き金として、指揮官は清武を起用し続ける構えだ。清武の判断にかかる部分が大きくなるが、本人は「プレッシャーは感じません」と報道陣を前に明言した。

 有言実行。言葉をプレーで表したのが、シュトゥットガルト戦だった。彼の復帰によってハノーファーのプレーも向上し、0−1からの逆転勝利をもぎ取った。その2点をお膳立てしたのが、清武の右足だった。

 清武1人だけでハノーファーを救えるわけではない。だが、「清武と他の選手の違いは、誰の目にも明らかだ」とローンベルクは力を込める。相手チームが黙っているわけもなく、中盤の守備的な位置で彼に監視の目を光らせる。清武が沈黙させられれば、ハノーファーのスイッチはオフになる。それでも清武は欠かせない。フィリップ記者は、興味深い数字を示す。

「今季、清武が先発した試合で、ハノーファーは13ポイントを稼いでいる。清武が先発しなかった試合では、勝ち点4しか手にしていない」

 時に数字は雄弁である。

 ハノーファーは崖っぷちに立っているが、清武に諦めるつもりはない。

「とても大事なことが1つだけあります。僕らは行動し続かなければいけないということです。そうすれば、最後に後悔が残ることはないでしょう。結果が望んだとおりでなくとも、僕らは全力を出し続けなければいけないんです」

 プレーのごとく、シンプルに、前を目指している。

 クラブ周囲にも、悲観的な見方は広がっている。「希望は見えない。チームはひどすぎる」とロールベルクは正直な心情を吐露する。一方、「もしかしたら、僕には想像力が欠けているのかもしれないね」とティーテンベルクも前を向こうとする。その足りない何かをもたらしてくれるのが、清武なのかもしれない。たとえ少数派であろうとも、ハノーファーを信じ続ける人間は、いる。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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