1勝挙げるも…「実戦経験が不足していた」  清水直行NZコーチの第4回WBC予選総括

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経験の少ないニュージーランド投手陣を指導した元ロッテの清水コーチ。写真は勝利したフィリピン戦の先発マーク 【Getty Images Sport】

 第4回WBCの予選第1組・オーストラリア(シドニー)ラウンドが、2016年2月11日から14日に行われ、オーストラリア代表が3連勝で本戦(2017年開催予定)出場権を獲得した。同予選に、ニュージーランド代表の投手コーチとして参戦した清水直行氏に、大会を振り返りながら、今後の課題、将来について聞いた。

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若い選手の国際大会経験が収穫

――WBC予選第1組は4カ国(オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランド、フィリピン)で争われました。今回、ニュージーランド代表の投手コーチとして大会に臨みましたが、大会全体を振り返って感じたことはありますか?

 結果的にオーストラリアが勝ち上がりましたが、試合内容を見るとそこまでの力の差は感じませんでしたし、全体を通じて各国がしっかりとチームを作って来ていたと感じましたね。特に南アフリカの二遊間などは3Aクラスの選手で守備も固かったですし、アメリカのマイナーでプレーしている選手を7、8人呼んできて、戦えるメンバーがそろっていました。選手だけでなく、オーストラリアなどはメジャーで長く経験のあるコンディショニングコーチをチームに加えていましたし、各国の本気度は高かったですね。

――その中でニュージーランド代表は、初戦で南アフリカに敗退(1対7)し、敗者復活戦でフィリピンに勝利(17対7)しましたが、続く南アフリカとの再戦でも敗退(2対9)しました。3試合を振り返っての反省点は?

 WBC予選では球数制限があるので、投手において一番大事なのは無駄な四球を出さないことでした。ですが、ニュージーランドはそれができなかった。とにかく四球が多かった。選手たちも気を付けてはいるんですけど、どうしても出してしまう。ストライクを取る技術がまだまだ足りなかったですね。

 そして、対戦相手の情報の少なさにも苦労しました。日本のように本戦から出場すれば、予選の戦いなどを元にして対戦相手の情報はある程度入手できるんですが、予選の場合は情報がまったくないところからのスタートになる。僕自身としても、ブルペンに電話が付いていなくて、トランシーバーを使ってベンチとやり取りをしていたんですが、電車の音とか歓声とか、いろんなノイズが邪魔して言葉が聞こえにくかった。結局、自分がブルペンからベンチまで走っていったりして、意思伝達の部分でも苦労しましたね。

――ニュージーランドの代表チームに日本人が加わることの難しさはありましたか?

 選手たちも僕に対していろんな見方をしていたと思います。「何でこんなに長く準備しなくちゃいけないんだ」「何でこんなに走らないといけないんだ」とか、「それは日本のスタイルだろう?俺たちには関係ない」という風に思っている選手はいたと思います。日本の野球が世界のトップだとは知られていますけど、リーグとしてはメジャーリーグがやっぱりナンバーワンで、ニュージーランドの選手たちもメジャーリーガーになることが夢。日本の野球を押し付け過ぎても選手たちは反発するので、指導する時の言葉のかけ方などには工夫が必要でしたね。

――今回の予選を通じて収穫もあったと思いますが?

 そうですね。今回、どうしてもメンバーに入れたかった17歳のカイル(・グロゴスキー)という投手を2戦目のフィリピン戦でデビューさせることができて、しっかりと1イニングを無失点に抑えてくれた。18歳の(ジミー・)ボイスという投手も、フィリピン戦で登板して勝利投手になってくれた。この2人を中心とした若い選手たちが今後のニュージーランドの中心になっていきますし、そういう選手が今回の大会を経験できたのは大きな収穫だったと思います。僕個人としても、NPB出身の日本人として、他の国の代表チームの一員として国際大会に参加できたというのは意義のあることだったと思います。

海外普及で日本はかなり遅れている

――ニュージーランド代表が強くなるためには今後、どういったことが必要になるでしょうか?

 他国に比べて選手たちの実戦経験が不足していました。今回のメンバーを見ても、半分ぐらいは普段は野球以外の仕事をして、今回の予選のために自分で体を作ってきた選手たちでした。今後、チームとしてのレベルを上げるためには、普段からアメリカやオーストラリアなどでプレーしたり、あるいはウインターリーグなどに行ったりして、個人の能力、スキルを磨く必要があるでしょうね。そして若手育成を考えた時に、ニュージーランド人選手が、現役引退後に自分の国に戻って若い選手たちを指導して行くというスタイルを確立させないといけないと思います。

 どんなスポーツでも1年や2年ですぐに強くなるということはない。時間はかかると思います。ですが、確実に前に進んでいることは間違いない。若手育成を続ける中で、世界大会に出たり、そこでいい結果を残したりすれば、ニュージーランドの国内に野球のニュースが流れる。そこから「俺たちも野球やろうぜ」というムーブメントを起こせれば面白いでしょうね。

――清水さん自身の今後の目標、プランはどういったものなのでしょうか?

 野球を通じて、日本とニュージーランドの橋渡しがしたいと思って活動してきました。僕はもうニュージーランドに住んでいますので、トップチームの結果だけじゃなくて、ニュージーランドの野球を草の根から育てて、その中で日本の野球を伝えて行きたい。そして独立リーグになるか、育成選手になるかは分かりませんが、ニュージーランド人選手を日本に送り込みたいですね。それをキッカケにして、野球を通じた新たな交流ができればと思います。今年に限ってみれば、7月(29日〜8月7日)に福島で開催されるU−15のワールドカップがあるので、まずはそこを一つの目標としたい。

――ニュージーランド野球の発展に尽力する中で、日本の野球界に対してあらためて気付いたことなどはありますか?

 日本の選手のレベルが高く、代表チームが強いというのは誰もが分かっています。でも、日本人の指導者を海外で見かけることは、まずない。その一方で、アメリカの野球関係者は、今回の予選参加国を含めて本当にいろんな国の代表スタッフとして働いている。外に向けての普及という面では、日本はかなり遅れていると感じます。もちろん言葉の問題はありますが、これからは日本人の指導者にもどんどん海外に出て行ってもらいたいですね。各国の代表チームにはアメリカ人が非常に多いですが、その理由の一つに、他の国の指導者がいないという側面がある。その部分を日本の元プロ選手が担うことができれば、もっともっと日本野球の価値は上がると思います。
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