国枝慎吾は全豪敗退でもっと強くなれる 杉山愛コラム「愛’s EYE」
敗戦も一つのプロセスになる
国枝がグランドスラムのシングルスで初戦敗退を喫するのは初めて。全豪OP男子ダブルス決勝(写真)でも敗れた 【Getty Images】
国枝選手とは去年のシーズンオフにお話しをする機会があり、精神的に充実しているという話を聞きました。
彼は2006年に初めて世界ランキング1位になり、直後は一時的にモチベーションを失ったそうですが、その後はモチベーションが下がることはないと言います。
彼の目指すところは、より完成された“コンプリートプレーヤー”で、今はそこに近づくための過程と捉えているようです。私はその境地に達したことがないので、なかなか知り得ない心境ではあります。ただ、車いすテニスも年々、プレーの激しさが増し、スピードもパワーも以前とは違うレベルに達しています。その分、トレーニングも進化しています。その中で長くトップにいるというのは、そういうことなのかと想像できます。今回の敗戦を見て、トップであり続ける難しさを改めて感じさせられました。
今年のリオデジャネイロパラリンピックはもちろん、2020年の東京パラリンピックも視野に入れていると聞いています。年齢的にはすでに30代に入っていますから、ここからの1年1年は、20代での1年とは全然違うものになるはずです。絶対王者と言われる国枝選手でも、東京までその地位を保つことは決して容易なことではないと想像します。実際にこの全豪では、周りの選手が国枝選手を研究し、「シンゴを倒すぞ!」という意気込みを持っているのがひしひしと伝わってきました。これから先は、また新たなチャレンジになるでしょう。
ただ、今回の負けで、また一つ大きくなっていく国枝選手もイメージできるのです。グランドスラムの全豪ももちろん大事な大会ですが、パラリンピックイヤーであることを考えれば、ここで負けておくことにはプラス面もあるのではないか、というのが私の正直な感想です。
種目は違いますが、国枝選手と同じように“常勝”が宿命の女子レスリングの吉田沙保里選手も、これまでに団体戦などで意外な敗戦を喫することがありました。絶対王者と呼ばれるような選手にとって、こうした敗戦は、さらに向上するためのきっかけになるのではないでしょうか。敗戦を見つめ直し、整理し、次の実戦に向けて調整することで、敗戦を受け入れて逆に力に変えることができるのではないかと思います。
多少調子が悪くても勝ててしまうと、課題が見えなくなるというか、ぼやけてしまうところがあるような気がします。だから、こういった結果が出たことで、今までと違った切り口で自分のプレーを見ることができるようになるのではないでしょうか。
あくまでも私の視点であり、国枝選手がどう感じているかはわかりませんが、この敗戦は、確かに驚きではあるけれど、決して悪いことではないと思っています。
上地が備えるトップ選手の資質
全豪OP女子シングルス準決勝でストレート負けを喫した上地結衣 【写真は共同】
彼女は“もっとこういうふうにしなくては目標にしている金メダルに届かない”ということを言葉にしているのだと思います。ですから、彼女の言葉を聞いていると、逆に“こういうテニスをしたら自分は金メダルが取れる”という確実なものがイメージできているように思えますし、それは選手として強みでしょう。彼女自身、勝てるようになるのは時間の問題と思っているような気もします。
彼女が今、取り組んでいるのはバックハンドのトップスピンで、これが自在に打てたらテニスの幅が広がるでしょう。彼女はこれを自分のものにしつつあります。勝ったり負けたりの現状ですが、テニスの幅を広げ、よりアグレッシブなテニスをするために通らなくてはならない道を歩いているのだと思います。
私もよく技術的なマイナーチェンジをしていましたが、技術を習得し、それを実戦で使えるようにすること、使えるだけの自信を身につけるのは簡単なことではありません。ただ、それをしないことには先はないのです。上位選手も皆、そうしています。そうした柔軟性、素直さ、また自分の現状を直視したり客観視できる目を持っている人でなければ、トップに行けないのだと思います。
上地選手はそんな資質を持ったプレーヤーです。彼女にはあくなき探求心を感じます。トップに行く選手であるのは間違いありません。
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