ジダンの監督就任でレアルに生じた変化 訪れた落ち着きと新指揮官への絶大な信頼

S・ヒホン戦の前半はパーフェクトなプレーを実現

サンティアゴ・ベルナベウで行われたスポルティング・ヒホン戦は5−1で大勝。選手たちからは笑顔がこぼれた 【Getty Images】

 サンティアゴ・ベルナベウで行われたスポルティング・ヒホン戦の前半を通して、レアル・マドリーは近年稀(まれ)に見るパーフェクトなプレーを実現した。その背景には、ようやくクラブに訪れた落ち着きと監督への絶大な信頼があった。

 今や選手たちは以前のしかめっ面を笑顔に変え、持てるタレントを存分に発揮しながらプレーするようになった。それだけでもう大きな進歩であり、現在の流れを維持することができれば、明るい未来が待っていることも期待できる。とはいえ、もちろん改善すべき点はまだいくつもある。たとえば、後半に集中力が落ちてしまう悪癖はその1つだ(前半だけで5ゴールを奪った後にモチベーションを保つことは難しい)。

 なお、ジダンは試合後の会見で、さらにフィジカルコンディションを上げていく必要性があると語っていた。後半にパフォーマンスが尻すぼみとなる原因が、個々のコンディションにあるかどうかは現時点では分からない。

 カペッロやルシェンブルゴ、モウリーニョ、ベニテスら守備第一のリスクマネージャータイプの監督が行き詰まった後、レアル・マドリーはしばしばフットボールをシンプルに解釈し、ビルドアップやボールポゼッションを重んじ、より攻撃に人数をかけるフットボールをしてきた。デルボスケやアンチェロッティ、ジダンのようなタイプの監督の指揮下で、よりスペクタクルで上質のフットボールを実現することになったのだ。

FIFAの補強禁止処分がプラスに働く可能性も

ジダンほどファンやメディアの後押しを受けている監督は滅多にいない 【Getty Images】

 フットボールはわれわれが考えているものより、ずっとシンプルなスポーツである。現在ベルナベウのピッチでは、その事実が再び少しずつ証明されつつあるのだ。

 一方、ジダンほどファンやメディアの後押しを受けている監督は滅多にいないことも事実だ。それは近い将来、チームが結果を出せなくなった際に分かることだろう。

 レアル・マドリーに変化をもたらしたもう1つの要因は、先日FIFA(国際サッカー連盟)から通告された1年間の補強禁止処分だ。矛盾に聞こえるかもしれないが、この制裁はレアル・マドリーにとってプラスに働く可能性がある。

 ヨーロッパのビッグクラブには、何らかの問題が発生した際には総じて下部組織ではなく、外から獲得する即戦力に解決策を委ねてしまう悪しき傾向がある。その結果、チーム事情に合わせて戦力を補填(ほてん)、補強するのが本来の目的であるはずの選手獲得は、今や半年ごとに当たり前のように行われるイベントとなった。しまいには、移籍市場がフットボールそのもの以上に重視されるようにまでなってしまっている。

 だが、補強が禁じられたことにより、今後レアル・マドリーは必然的にカンテラ(下部組織)に目を向けざるを得なくなるだろう。昨年末に同様の補強禁止処分の終了を迎えたバルセロナも、そうやって苦境を乗り越えてきたのだ。

 何でも選手獲得で解決できるわけではなく、既にレアル・マドリーは十分過ぎるほど戦力は擁している。今回FIFAから同じ制裁を受けたアトレティコ・マドリーとともに、レアル・マドリーはこれを機に、ようやくそのことを理解することになるかもしれない。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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