内山高志、井上尚弥らが米国進出へ 日本ボクシング界、転機の1年になるか!?

船橋真二郎

三浦の試合が年間最高試合に

昨年11月の三浦(右)vs.バルガスは年間最高試合に選ばれるなど、インパクトを残した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「ビッグパンチ、ノックダウン、流血、ハート、至高のアクション、そして、最上級のドラマ。彼らはプロのファイトに求められる、すべてが詰まった戦いを提供した」(スポーツ専門チャンネル『ESPN』ホームページ)

 昨年11月21日、米ラスベガスで行われたWBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ、5度目の防衛戦に臨んだチャンピオンの三浦隆司(帝拳)がダウン応酬の激闘の末に無敗挑戦者のフランシスコ・バルガス(メキシコ)に9ラウンドTKOで敗れた一戦が、全米紙『USAトゥデイ』、総合スポーツ誌『スポーツ・イラストレイテッド』、スポーツ専門チャンネル『ESPN』、ボクシング専門誌『リングマガジン』といった米国の複数メディア、さらには統括団体のWBCから2015年のファイト・オブ・ザ・イヤー(年間最高試合)に選出されている。

 1ラウンドにバルガスの痛烈な右フックで、いきなりダウン寸前のピンチに陥りながら、三浦が持ち前の左の強打でダウンを奪った4ラウンドは『リングマガジン』から、8ラウンドにストップ寸前に追い込まれ、右目の周囲を痛々しく腫らせたバルガスが起死回生のダウンを奪い返し、逆転のストップ勝ちを決めた9ラウンドは『ESPN』から、それぞれラウンド・オブ・ザ・イヤー(年間最高ラウンド)にノミネートされた。

「コット対カネロはグッド。ミウラ対バルガスはグレート」(全米紙『USAトゥデイ』電子版)

 ドラマチックなファイトを演じた主役のひとりとして、三浦が残したインパクトは、同じ興行のメインカードで2015年下半期最大のビッグマッチとも言われたミゲール・コット(プエルトリコ)とサウル・アルバレス(メキシコ)のスター対決を食うほどだった。

 惜しむらくは勝者が三浦ではなかったことだが、早々にバルガスとの再戦を期待する声が上がるなど、再び米国のリングに立つ可能性は高い。三浦だけではない。2016年は日本人ボクサーが、さらなるインパクトをボクシングの本場に与え、日本ボクシング界にとっての転機となる1年になるかもしれないのである。

米国進出が決定的な内山高志

米国進出が確実視されているWBA世界スーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志 【写真:ロイター/アフロ】

 まず待望の米国進出が決定的になったのがWBA世界スーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志(ワタナベ)だ。大みそかに行われた11度目の防衛戦では、得意の左ボディ一撃で3ラウンドTKO勝ちを収め貫録を見せた。一昨年秋には長年悩まされてきた右拳の痛みから解放され、昨年5月にはずっと明らかにしてこなかった左ヒジの遊離軟骨除去手術にも成功した。ようやく万全の状態になったことで渡辺均・ワタナベジム会長がゴーサインを出した。

 今春の実現を目指し、交渉が進められている米国デビューの相手は前WBA世界フェザー級“スーパー”王者のニコラス・ウォータース(ジャマイカ)が有力である。2014年に元2階級制覇王者ビック・ダルチニアン(オーストラリア)、元5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)とビッグネームを連破した“アックスマン(斧男)”は、実績はもちろん実力的にも申し分なく、内山もモチベーションをかき立てられている。
「無敗だし、ドネアに勝ったので名前がある。勝てば、自分の株が上がる」

 黒人選手特有のバネと即興性のある動きは、どこか動物的。セオリーにないタイミング、アングルで打ち込まれる強打に対し、内山がいかに対処するか。逆に理詰めの戦略の中に強打を効果的に配していく内山に対し、ウォータースがどんな反応を見せるのか。実に興味深い。

 36歳の内山にとっては、最初で最後のチャンスとも言えるのかもしれないが、試合内容と結果によっては道が開けてくる可能性は大いにある。渡辺会長も元3階級制覇王者のユリオルキス・ガンボア(キューバ)、北京、ロンドン五輪金メダリストで、プロ転向3戦目にして現在のWBO世界フェザー級王座を獲得したワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)らの名前を挙げ、条件次第で米国で戦い続ける意向を示している。日本のトップ・オブ・トップの影響力は絶大。内山が道を切り開けば、あとに続く日本人ボクサーにも勢いがつく。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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