試練の夏を乗り越えた下北沢成徳 変化を続けてたどり着いた春高の頂点
圧倒的な強さを発揮して3年ぶりの優勝
3年ぶり3度目の優勝を飾った下北沢成徳。東京第3代表から、一気に頂点へ駆け上がった 【坂本清】
九州文化学園(長崎)、八王子実践(東京)といった優勝候補に挙げられる強豪たちを次々打破し、下北沢成徳が3年ぶりに春高(全日本バレーボール高等学校選手権大会)を制覇した。小川良樹監督が「準決勝、決勝に関しては何も言うことがない」と口にするほど、すべてのプレーにおいて完璧と言っても過言ではない展開に持ち込み、圧倒的な強さを発揮して頂点へと駆け上がった。
あわや東京都予選敗退かという危機的状況から成し遂げた全国制覇。ユース代表としても活躍し、2020年の東京五輪へ向けた強化選手にも選出されている2年生エースの黒後愛など、高いスキルを持つ選手たちを擁することばかりが注目を集めがちだが、わずか数カ月、いや、春高の6試合でこれほどまでの進化を遂げた理由は別にある。
小川監督はこう言った。
「上からの伝統やルール、応援などをただ引き継いでやっている代というのは、それなり(の結果)に終わっているんです。優勝や準優勝という結果を残してきているのは、今あるものを“変化させていける”選手たち。彼女たちは変化させていける力を持っていました」
インハイの予選敗退で覚えた危機感
3年生レシーバーの川上七海が「大変なことをしてしまったと後になるほど思い知った」と言うように、インターハイだけでなく春高出場も危ないのではないかという不安も漂った。現状を打破すべく、夏場は猛暑の中800メートル、400メートル、200メートル、100メートル、50メートルのインターバル走を毎日行い、基礎体力の向上に努めるなど、十分な練習やトレーニングに充てた。一方で、選手間にも気付かぬうちに不協和音が生じ始めていた、と同じく3年生レシーバーの武田花奈は言う。
「8年連続で出ていたインターハイに出られないということは、根本のダメな部分、変えなければいけない部分があるということ。それが何なのか自分たちで考えて練習しなければ意味がないと思ったし、改善しなければならないのはプレーだけでなく精神面にもある。厳しいことでも、お互いが言い合って、それまでは気付かなかったこともきちんとぶつけ合うことが必要だと思いました」
甘さや雑さが見えることがあっても、それを口にすればチーム内の雰囲気が悪くなるかもしれない。インターハイ予選で負けるまでは、思ったことがあっても言わずに飲み込んできた。だがその結果が予選敗退という事実であり、遠慮し合ってきたために本音でぶつかり合えず、互いの本音を探り合う、どこかギスギスとした状態を招いていた。
このままでは何も変わらないどころか、チームはもっと悪くなるかもしれない。まずはそれぞれが思っていることを包み隠さずぶつけ合わなければならないと考えた選手たちは繰り返しミーティングの場を設けた。