春高を制した東福岡・金子の“人間力” 石川祐希にはなれず、でも特別な存在に

田中夕子

「連覇」への期待、選手たちが感じていた不安

春高バレー決勝、東福岡は鎮西をストレートで破り、連覇を果たした。金子聖輝(1)はキャプテンとしてチームを引っ張った 【坂本清】

 10回に1回。それをどう本番でぶつけるか。

 インターハイを制した昨年、東福岡(福岡)は優勝候補の大本命として春高(全日本バレーボール高等学校選手権大会)に臨み、前評判通りの強さを発揮してチーム初の優勝を成し遂げた。

 あれから一年、1年時からエースとして活躍してきた金子聖輝はキャプテンを務めていた。チームはセッターの井口直紀、サウスポーのウイングスパイカー古賀健太、リベロの正近幸樹といった3冠達成時のメンバーも残るとはいえ、セッター対角に入る2年生の井上陽太は172センチ、ミドルブロッカーの安部翔大、佐伯聖海は1年生。将来性が高く、優れた能力を持っている選手とはいえ、未経験の春高ですべてを発揮できるとは限らない。

 周囲からは「連覇」への期待が高まる中、選手たちが感じていたのは自信よりも不安だった、と藤元聡一監督は言う。

「昨年は10回春高があれば8〜9回は勝てる力がありましたが、今年は10回に1回、勝てるかどうか。それを練習して、練習してやっと3回まで引き上げた。どうやって一発を最後の春高で当てるかが、私の仕事だと思ってやってきました」

 しかし、迎えた1月10日の決勝。東福岡は鎮西 (熊本)をストレートで破り、連覇を成し遂げた。

石川祐希と金子聖輝、2人のエースの違い

現在は全日本でも活躍する石川祐希(写真)。石川と金子、2人のエースの間には大きな違いがあると東福岡の藤元監督は言う 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 昨年はサーブレシーブやディグ(相手のサーブ以外のボールをレシーブすること)などで守備力の高い選手も多く、なおかつ攻撃力も持ち併せた選手が多くそろっていた。そのため、選手個々が最低限の役割を果たせば、それだけで十分本来の力を発揮することができた。

 だが今季は違う。金子を筆頭に、古賀や佐伯といった攻撃力の高い選手もいるとはいえ、相手チームからすれば「東福岡は金子のチーム」という印象が強い。どのチームもサーブで金子を狙い、万全な状況で攻撃に入らせまいという戦術を敷くのは当たり前の状況となっていた。

 かつて星城(愛知)高在学時に2、3年とタイトルを総なめにした石川祐希(中央大)も、攻撃だけでなく守備の負担も多く担っていたが、石川と金子、2人のエースには大きな違いがあると藤元監督は言う。

「石川選手のスパイクは100点近いレベルであったのに対し、金子はスパイク、トス、レシーブ、ブロック、つなぎ、すべてが80点の選手。本人(金子)にはずっと、“石川になれ”と言ってきましたが、正直、そこまでの力はありません」

 対戦チームの多くは、守備範囲が広く、サーブレシーブ力にも長けている正近を避け、金子を狙い、ブロック、レシーブで得意なコースをふさぐ。実際、昨夏のインターハイ準々決勝で対戦した駿台学園(東京)は、中学時代に日本一を経験するなどキャリアも豊富で個の力に長けた選手も多く、連覇を狙う東福岡は何もできないまま完敗を喫した。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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