サッカーが世界平和に貢献できること 広島の新スタジアム建設問題を考える

江藤高志

広島の新スタジアム建設構想

広島の現ホームであるエディオンスタジアム。老朽化が進み、交通アクセスの悪さや試合開催日の交通渋滞などが問題視されている 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 今、その広島では新スタジアム建設に向けた議論が続いている。広島の現ホームのEスタは老朽化が進み、交通アクセスの悪さや試合開催日の交通渋滞などが問題視されている。そうした課題を解消すべく、13年6月にサッカースタジアム検討協議会が設立されると、翌年12月に広島県、広島市、広島商工会議所、県サッカー協会に報告書が提出され、旧広島市民球場跡地と広島みなと公園の2カ所の候補地が答申されている。どちらになるとしても、仮にサッカー場が建設されれば、それは広島復興の記録と平和の重要性を後世に伝えるという使命に、大きく貢献するのではないかと思う。

 FIFAには国連加盟国よりも多い209の国と地域の協会が加盟している。サッカーが世界最大のスポーツと言われるゆえんだ。広島で国際大会や試合が開催されれば、全世界の人々がサッカーを目当てに広島を訪れる可能性が出てくる。だからこそ、Eスタよりも立地のよい新スタジアムの建設により、サポーターが試合前後の時間をより有効に使えるようになるのは確実だ。

 すでに“サンフレッチェ”という資産を持つ広島にとって、サッカーというスポーツは広島に多くの人々を集める大きな手段となる。アクセスを考えれば旧市民球場跡地がベストだが、そうでなくともスタジアムの新設によって原爆ドームや資料館などの施設を訪れる可能性は増えるはずで、スタジアム建設に意義は見いだせる。

乗り越えるべき高いハードル

 とはいえ、新スタジアム建設のために乗り越えるべきハードルは高い。新スタジアム建設関連の案件を担当する広島県・広島市・広島商工会議所の実務担当者で構成される作業部会の関係者に問い合わせたところ、建設候補地に加えて事業主体がどこになるのか、というクリアすべき課題があると教えてくれた。事業主体を決定するためには、概算事業費の算出、資金調達、運営方法などを含めた事業性の判断を行うための調査などが必要であり、現在作業部会において検証を進めているという。

 財源問題についてはやり方はあるはずだ。12年には大分がサポーターに呼び掛けてクラブ存続のための寄付金を募り、3カ月ほどで1億2000万円を超える額を集めた。ガンバ大阪のスタジアム建設のための募金には、個人から6億円を超える浄財が集められた。G大阪の新スタジアムの資金調達の手法については、作業部会でも参考にしていきたいと話す。いずれにしても、市井の一市民は、意義が明確であれば自らのお金を拠出することをためらわないということの実例であろう。

 スタジアム建設について取材を続けているある報道関係者は、一番の問題として、建設を希望する人たちが一枚岩になりきれてない点を挙げる。候補地をめぐる問題が先鋭化しており、希望する場所に建設できなければ意味がないと、建設自体を阻止しようとする動きもあるという。

 つまり、2カ所に絞られた建設予定地のそれぞれの支持派と反対派が存在するのに加え、スタジアム建設そのものに対する推進派と反対派が複雑に絡まり、身動きがとれない状態になっているという。スタジアム建設について何らかの決定が出た瞬間に、その決定に反対する人々からは鋭い糾弾が飛んでくるかもしれない。だからこそ、政治家がリーダーシップを取るしかないのではないかと、前述の報道関係者は話す。

サッカーが平和運動の一翼を担う可能性

クラブW杯のために来日したリバープレートのサポーターが平和記念公園などでも多数目撃された 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 そもそも、広島に新スタジアムを建設するという事業については、国政レベルの動きが起きてもおかしくはないと考える。理由は、日本が平和の理念を掲げる「平和国家」だからだ。世界中に平和を説き、核兵器の非人道性を伝えようとする際に、その生々しい記録を収蔵する施設への訪問に勝る教育機会はない。核兵器による破壊を経験した都市だからこそできる平和運動であり、サッカーがその一翼を担える可能性があるのだ。

 実際、先のクラブW杯観戦のために訪日したリバープレートのサポーターが広島でも多数目撃されている。AFCチャンピオンズリーグにエントリーし、広島の地を訪れたセントラルコースト・マリナーズ(14年)、アデレード・ユナイテッド(10年、共に豪州)といったクラブも平和記念公園を訪れた。こうした事実をもってしても、サッカーが世界とつながりを持てる競技だということは明らかだ。

 広島が活躍することで、スタジアム活用の場はアジアを飛び越えて世界に広がる。さらにフル代表までカバーする規格のスタジアムを建設できれば、日本代表の国際Aマッチや、各種国際大会の開催も可能となる。

 国が直轄する平和事業の一環として、広島のスタジアムを整備するという方法もあり得るのではないか。例えば旧市民球場跡地はその大半が国有地だ。欧州などで見られる、試合のチケットが開催当日の公共交通機関の無料券になるような発想で、平和記念資料館を関連付けてみてはどうだろうか。そうした大義名分さえあれば、建設費や維持費を国が支出する根拠にもなるのではないか。

 もちろん旧市民球場跡地が都市公園法の適用を受ける区域にあるという問題や、原爆ドームの世界遺産登録時に広島市が設定した「原爆ドーム及び平和記念公園周辺地区における美観形成基準」といった建築物に対する制限条項などが存在しており、一筋縄ではいかない事情がある。

 だが、広島という都市だからこそ、“サンフレッチェ”というすでに現存するソフトパワーをより効果的に使う方策があるはずだ。ここまでスタジアム建設に尽力されてきた方々に敬意を表しつつ、今広島で醸成されつつある新スタジアム欲求の機運をうまく生かしてほしいと切望している。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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