“伸びしろのある世界王者”田口良一 リスクある勝負で存在感高める1年に

船橋真二郎

採点ビハインドも、逆転でのTKO勝利

WBA世界ライトフライ級王者の田口良一は2度目の防衛に成功した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ボクシングのWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)が大みそかの東京・大田区総合体育館で同級7位のルイス・デラローサ(コロンビア)を9回終了TKOに下し、2度目の防衛に成功した。9回に田口が猛攻を仕掛けて迎えた10回。開始ゴングが鳴っても挑戦者はスツールから立ち上がらず、「左目が見えなくなった」と棄権。レフェリーが田口の左腕を上げた。9回までの採点は87対84、86対85で2者がデラローサ、残る1者が86対85で田口とビハインドを逆転する形となった。

 立ち上がりから動きが重く、攻勢を許した田口。デラローサは小柄なファイタータイプでぐいぐい距離を詰めてくる。受ける格好になった田口のディフェンスはガード主体になったが、このタイプはガードの上からでも連打がつながれば調子づく。ラウンドが進むにつれ、次第に田口も要所にショートブローで好打を決めたが「相手の土俵で戦ってしまった。足が思いどおりに動かなかった」と振り返ったように、ジャブを突いてもポジション取りが変わらず、リーチ差を有効に使えなかった。序盤は挑戦者の距離で苦しい展開が続いた。

ジャブでペースを変え、ボディを効果的に決めた

ジャブでペースを変えたところから、流れを呼び込んだ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ポイントのひとつになったのは6回のチェンジ・オブ・ペースだった。
「このままではヤバいと感じていた。セコンドからジャブが少ないと言われていたので、手数が少なくなってもいいから、とりあえず距離を取って、ジャブだけでやってみようと」

 左を突いて、サイドに回る。それまでと違うシンプルな動きを徹底したことで流れが変わった。何より意識して足を動かしたことで、少しずつ田口の動きにリズムが出てきた。
「最初から距離を詰めて、しとめるつもりだったが、距離を取られた時点で、我々の負けだった」(デラローサ)
 自分のペースでやれていると感じていたデラローサには、心理的影響も少なからずあったはず。その微妙な心理の変化によって、序盤のハイペースが逆に疲労となってのしかかり、挑戦者の動きは明らかに落ちていく。

 もうひとつ、試合を決めたのが田口の得意な左ボディだった。序盤から数は少ないながらも効果的だったが、デラローサの動きが落ちた7回、8回と頻度を上げ、着実に心身を削っていった。8回には左目上をカットし、裁定は田口の有効打と出る。デラローサは試合後、バッティングで左目が見えなくなったと主張したが、心が折れかかっていた表れでしかない。弱気を見て取った田口は9回、開始早々から仕掛けて、右打ち下ろしを何度も決め、ダウン寸前まで追い込んだ。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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